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12-1 一二三SIDE
どうしよう、何だかまだ胸がドキドキしているような気がする。
ステージは勿論の事、外は寒かったけれど綺麗な満月も一緒に眺められたし、総一郎のいつもと違う一面も知ることが出来た。
何時ものキスだって、想像していたシチュエーションとは随分かけ離れていたけれど、それでも彼に触れられるのは嬉しい。
「ああ、もう……! おかしいなぁ、僕……」
一二三は広いダブルベットの片側に転がり、枕に顔を埋める。
目まぐるしく自分の中を駆け巡る感情に困惑を隠せない。
総一郎と過ごす時間は、とても楽しい。自分の今まで知らなかった世界を教えてくれる彼が、本当に大好きだ。
勿論、男同士でこんな感情を持つのは可笑しい事位理解している。だが、彼の事はもっと知りたい。もっと傍に居たい。
総一郎を抱きしめてみたい。好きだと言って欲しい。キスやそれ以上も、本当はしてみたい。
キスのその先を知るのは怖いけど……総一郎にならいいか、と思ったりもする。
こんな気持ちになるのは初めてだし、正直自分でもよくわからない感情だ。
でも、女性にベタベタ触られるのはどうしても受け入れられないのに、彼に触られたらドキドキして、もっと触って欲しいなんて考えてしまう。
「こんなの、やっぱりおかしいんだよな……」
ポツリと呟いて、大きく溜息を吐きだすと、不意に扉をノックする音が聞こえて慌てて飛び起きた。
こんな深夜に誰だと言うのだろう。もう日付が変わりそうな時間帯だと言うのに。
不審に思いつつドアを開くとそこにはいつになく神妙な面持ちをした風見が立っていて、思わずビクリと身体が震えた。
「か……風見?」
「お休みの所申し訳ありません。……少し、宜しいですか?」
なんだか嫌な予感がする。なぜだかよくわからないが、本能的にそう思った。
正直言って昔から、この男は苦手なのだ。何処までが本心なのかよくわからないし、自分に従順なフリをして、実際は父親の飼い犬な所も気に入らない。
「僕はもう、寝ようかと思っていたんだが……それは今じゃないとダメなのか?」
「そう、ですね。申し訳ありませんが、直ぐ済みますので」
そこまで言われてしまえば、断る理由が無い。渋々中に入るよう促せば、彼は少し躊躇った様子を見せつつも、ゆっくりとした動作で部屋の中へと入ってきた。
「それで、話と言うのは?」
「あー、そう、ですね……。それでは、単刀直入に聞きます。一二三様は陣 総一郎と言う男をご存じですよね?」
陣、と言われて咄嗟に誰の事なのかわからなかった。何処かで聞いたことがあるような気がしたが、思い出せない。
「失礼、では質問の仕方を変えましょうか。今日、観劇デートに行くとおっしゃってましたが、その相手はこの船のクルーの一人なのではないでしょうか?」
「ッ!」
顔に出してはいけないと思いつつ、確信を突いた言葉に表情が強張る。
「……その反応は、どうやら当たりのようですね」
やはり、と呟く彼に、一二三は慌てて頭を振った。
「違う……! 彼とは偶然……会っただけで……」
「偶然? そう、ですか……。では、その後、連れ立って二人で人気のない甲板へ出られたのも偶然と言うわけでしょうか?」
「……」
遠回しな言い方だが、暗に後をつけていたのだろう。一体いつからつけられていたのだろうか?
総一郎と待ち合わせしていたあの時だろうか? それとももっと前、か?
どのみち、浮かれすぎて全然気気付かなかったのは自分の失態である。
「あの男が……貴方の恋人なんですか?」
「……」
どう答えて良いものか。肯定するべきか、それとも否定するべきなのか。
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