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風見のリサーチ能力が優れている事は嫌と言うほど知っている。こうやって聞いて来ると言う事は、恐らくキスしているところも見られていたのだろう。
ただ単にカマをかけようとしているだけかもしれないが。
「答えられないんですか?」
じわじわと責めるような口調に胃が痛くなる。何か言い逃れ出来る術はないだろうか? 総一郎に迷惑をかける事だけはどうしても避けたい。
「彼は、僕の先生なんだ」
「先生、ですか?」
「……僕は色々と知らないことが多いから、エスコートの仕方とか、色々と教えて貰っていただけで。彼は何も悪くないんだ。だから、彼を責めないで欲しい」
一二三は必死にそう訴えたが、風見は納得のいかないような表情を浮かべたまま、「そうですか……」と呟いただけだった。
表情が読めないこの男に薄気味悪さを感じて、一二三は思わず後ずさる。
「では、もう一つ。これは、私の個人的な質問なんですが……貴方は、彼に何処まで許したんですか?」
「……え?」
どこまで、とはどういう意味だろう?
「仮に本当に彼が先生役を引き受けていたとして、一体何処までその身体は教わっているのか、と聞いているんです」
「そ、れは……」
グッと距離を詰められ、その分後ろへと下がる。眼鏡の奥に隠された瞳が、怖い。
「キスは? あの男がその身体に触れたことは? ……まさか、それ以上の事まで許したりしていませんよね?」
低く冷たい声が責めるように問いかけてきた。部屋の照明を背に受けて風見の表情まではよく見えないが冷たい気配がダイレクトに伝わって来る。
じりじりと後退りながら、不穏な空気に何も言えないでいると、彼は追い打ちをかけるように更に一歩一二三へと歩みを進めた。
「……答えられないんですか? まぁ、いいでしょう。だったら直接身体に聞くまでです」
「な、何を……ぅあっ!?」
一歩下がった瞬間。トンと、ベッドの縁に足が当たったと思った瞬間身体を押され、ベッドの上にドサリと倒れ込む。
そのすぐ後を風見が追うようにベッドへと乗り上げてきた。
「な……っ、何のつもりだ!」
慌てて起き上がろうとしても、手首をシーツに縫い留められて身動きが取れない。
「こんなにも簡単に押し倒されるなんて。相変わらず一二三様は危機管理能力が低いようですね。だから、一人で出歩かせるのは危険だと進言したのに」
「五月蠅い! 離せ……ッ」
身体を捩り抵抗を試みるが、自分より体格の大きい彼に体重を掛けられては敵わない。
一二三の抵抗など物ともせず、風見は身体を屈めて耳元に唇を近づけて来た。
「あんなどこの馬の骨とも知れない男に手籠めにされていたなんて、悔やんでも悔やみきれません。私がもっと早く貴方の事を気にかけてあげていたら……あんな下賤な男を指南役に選ぶことなんてなかったのに」
「は? 何言って……」
明らかに総一郎を見下すような発言に、不快感が募る。
総一郎は、からかったりする事はあっても、けっしてこちらの自由を奪うような真似はしてこなかった。
いつだって自分を気遣ってくれて、優しく丁寧に接してくれるのに。
総一郎の事を何も知らないのに、言いたい放題な風見に無性に腹が立った。
「おまけに、彼女が出来たなどと一二三様に嘘まで吐かせるなんて、図々しいにも程がありますね。……一二三様。今すぐ彼との関係を清算してください。金輪際、あの男に会ってはいけません」
「……ふざけるな……っ」
自分でも驚くくらい、低く冷たい声が腹の底から吐きだされる。
これ以上はとてもじゃないが聞いていられなかった。
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