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12-3
普段は自分の味方のようなフリをしてなんだかんだと世話を焼くクセにいざとなった時には守ってもくれない。
女性が苦手だと何度も言っているのに、父の命令だからと一緒になって、嫌がる一二三を無理やり此処へ連れて来たのは誰だ!?
更に言えば、自分の預かり知らぬところで、様々なフィルタリングを幾重にも掛け徹底的に情報を操作していたのもこの男だ。
総一郎と出会わなければ、自分はずっと狭い檻に閉じ込められたまま、父とこの男に言われるがまま異性との交際強要されていたかもしれない。
そんな未来は地獄でしかない。
一二三の為だと言いながら、全然こちらの話に耳を傾けようともしてくれない彼に、憤りが募った。
「冗談も休み休み言ってくれ! 彼には僕がお願いして無理言って付き合わせていただけだ! 脅されたり、無理やり言わされたわけじゃない! それに、何の権利があってお前が僕に指図するんだ! 」
自分の事よりも、何も知らない風見に彼を見下された事実が悔しくて、腹立たしくて、怒りがこみあげて来る。
一二三は精一杯の力で風見の身体を突き飛ばすと、その下から抜け出して直ぐ傍に置いていた枕を掴み取り、彼の顔目がけて思い切り叩きつけた。
「う……っ」
いくら一二三が非力とはいえ不意打ちに近かったので、完全に避ける事が出来ず風見は顔面で枕を受け止めてしまい、顔を手で覆って痛みに呻く。
「ふざけるなッ!、誰とどう付き合うかは、僕自身が決める!!」
「ひ、一二三様……っ」
まさか反撃されるとは思っていなかったのか、怯んで反応が遅れた風見を睨みつけ、一二三は部屋から飛び出した。
「あれ? 西園寺さん?」
どの位走っただろうか。無我夢中で走って辿り着いた先は、何故か総一郎の部屋があるフロアの一角だった。
風見を上手く撒けたことにホッとして壁に手を突き呼吸を整えていると、耳に良く馴染んだ声が耳に響いて、一二三はハッと我に返る。
視線を前に向ければ丁度今脳裏に浮かべていた人物の姿があって、ホッとしたのと同時に縋り付くように服の裾を掴んだ。
「わ、あ、あの……どうかしたんっすか? さっき、部屋に送り届けましたよね。何か忘れ物でも……?」
戸惑いがちに尋ねられ、ブルブルと首を振る。
「違う、その……ごめん。ちょっと、眠れそうになくて……」
「ふはっ、何なんですか。その子供みたいな理由」
「う、五月蠅い……っ」
さっき風見に言われた言葉が頭を過り、じわりと瞳に涙が滲むのが判って慌てて顔を背けた。
こんな情けない顔なんて見られたくない。なのに、総一郎はそれに気付き、そっと距離を縮めて来たかと思えばゆっくりと暖かい手で頬を包み込んできた。
どうして……この男はこんなにも自分の心にすんなりと入って来るのだろう。
風見に触れられるのはあんなにも嫌悪感が有ったのに、彼の手の平からは得も言われぬ安堵感と優しさが伝わって来る。
「……取り敢えず、此処じゃ目立ちますし……。展望室にでも行ってみます? 生憎、部屋は使えそうにないんで」
何かあった事は直ぐに気付いたようだが、敢えて今は何も聞かずに包み込んでくれる総一郎の優しさに、胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。
さっきまで不安と焦りでどうしようもなく苦しかったのに、彼が傍に居てくれるだけでこんなにも救われた気持ちになるなんて、自分は何て現金な人間なんだろう。思えば総一郎にはいつも助けられてばかりいるような気がする。
このままじゃいけない。総一郎に迷惑をかけてしまう。頭ではわかっているのに、抱きしめられた温もりが心地よくて、離れられない。
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