7 / 8
第7話 地獄
「ねぇ見て!
あいつまた一人で笑ってるんですけど!」
「でた!
……ほんとだキモ過ぎでしょー」
「ほんとそれな」
「ねー、京子もそう思うでしょ?
……ねぇ、聞いてるー?」
ざわめきが満ちる始業前の教室、清々しい朝の空気にふんわりと黒いもやが混じっていく。
「ごめん、ごめん。
ちょっと、ぼーっとしちゃってた。」
クラスメイトA・B・Cの無邪気な悪意を、ちょっと間の抜けた女を演じてすり抜ける。
「やだ、京子って天然?」
「ほんと、美少女はぼーっとしてても絵になるから羨ましいわー」
「ほんとそれなー」
そんなことないよー、とぱたぱた顔の前で手をふりながら、ちょっとした失敗談を披露する。
得意になって先生の悪口を言っていたら、実はその先生が怖い顔して後ろに立ってた、といった類の。ありきたりで、つまらない、日常によくありそうな話。
コツは少しの悪意と不運をちりばめること。
だって、好きでしょ?
そういう話。
何本かそういうエピソードをストックしておいて、ちょっとずつ内容を変えて話せばたいてい切り抜けられる。
だって、あなたたち話の内容なんてろくに聞いていないでしょ?
本当はもっとどぎつい不幸な話を用意してもいいけれど、きっと引いちゃうだろうから。
そんなひどい話を嬉々として聞いている、自分自身に。
あなたたちの本性なんてそんなもんなのにね?
私知ってるよ。
あなたたちが、
私のいないところで、
私のことをバカにしていること。
私、ちゃんと知ってるからね――
私といると私目当ての男の子たちがよってくるから、便利なんでしょう?
自分がちやほやされてるみたいで、気持ちいいんでしょう?
『京子はぼんやりしてるから心配』とか、
『京子に変な虫がつかないように、私たちが守ってあげる』とか、
自分に都合のいいように、自分に言い聞かせてるんだよね?
ねぇ、知ってる?
あなたたちが、
人を悪く言うとき、
自分を欲を良くみせようと画策してるとき、
どんな醜悪な顔をしているか――
悪意は体の中で発酵し、ひどい臭いをまき散らす。
なら、私は?
一人になるのが怖くて
聞きたくもない話を聞いて
したくもない
ちっとも面白くもない
そんな作り話をして
浮かべたくもない笑顔を浮かべて……
ねぇ、教えて。
私は今、どんな顔をしている?
ともだちにシェアしよう!

