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第7話 地獄

「ねぇ見て!  あいつまた一人で笑ってるんですけど!」 「でた!  ……ほんとだキモ過ぎでしょー」 「ほんとそれな」 「ねー、京子もそう思うでしょ?  ……ねぇ、聞いてるー?」  ざわめきが満ちる始業前の教室、清々しい朝の空気にふんわりと黒いもやが混じっていく。 「ごめん、ごめん。  ちょっと、ぼーっとしちゃってた。」  クラスメイトA・B・Cの無邪気な悪意を、ちょっと間の抜けた女を演じてすり抜ける。 「やだ、京子って天然?」 「ほんと、美少女はぼーっとしてても絵になるから羨ましいわー」 「ほんとそれなー」  そんなことないよー、とぱたぱた顔の前で手をふりながら、ちょっとした失敗談を披露する。  得意になって先生の悪口を言っていたら、実はその先生が怖い顔して後ろに立ってた、といった類の。ありきたりで、つまらない、日常によくありそうな話。  コツは少しの悪意と不運をちりばめること。  だって、好きでしょ?  そういう話。  何本かそういうエピソードをストックしておいて、ちょっとずつ内容を変えて話せばたいてい切り抜けられる。  だって、あなたたち話の内容なんてろくに聞いていないでしょ?  本当はもっとどぎつい不幸な話を用意してもいいけれど、きっと引いちゃうだろうから。  そんなひどい話を嬉々として聞いている、自分自身に。  あなたたちの本性なんてそんなもんなのにね?  私知ってるよ。  あなたたちが、  私のいないところで、  私のことをバカにしていること。  私、ちゃんと知ってるからね――  私といると私目当ての男の子たちがよってくるから、便利なんでしょう?  自分がちやほやされてるみたいで、気持ちいいんでしょう?  『京子はぼんやりしてるから心配』とか、  『京子に変な虫がつかないように、私たちが守ってあげる』とか、  自分に都合のいいように、自分に言い聞かせてるんだよね?  ねぇ、知ってる?  あなたたちが、  人を悪く言うとき、  自分を欲を良くみせようと画策してるとき、  どんな醜悪な顔をしているか――  悪意は体の中で発酵し、ひどい臭いをまき散らす。  なら、私は?  一人になるのが怖くて  聞きたくもない話を聞いて  したくもない  ちっとも面白くもない  そんな作り話をして  浮かべたくもない笑顔を浮かべて……  ねぇ、教えて。    私は今、どんな顔をしている?

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