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第20話 オチつかない

「はーい、お世話さまー」  愛想よく出入りの検査業者を見送った事務員さんに、さりげなさを装って声をかけた。 「あ、検査結果、ついでに持っていきますよー」 「あら、京子ちゃん、ありがとねー」  京子は血液検査の結果の束を受け取ると、診察室へと向かった。  院長は昼休みで院長室に戻っている。今がチャンスだった。  京子は診察室の確認ボックスに検査結果を入れるふりをして、検査結果の束から佐藤桃慈の名前を探した。十数枚めくったところで、桃慈の結果を見つける。  数字の羅列の中で、赤字や青字で強調されている項目がないか目を走らせる。しかし、本人の様相に反して、血液検査の結果特別な異常は認められないようだった。強いて言えば、白血球の値が高いが、基準値内で収まっている。  京子は検査結果を所定の位置に置き、そっとため息をついた。検査結果に異常がないことはとても喜ばしいことだ。しかし、あの桃慈の状態を見てしまうと、それが本当に良いことなのか京子は疑念を覚えてしまう。  検査では異常がない。では、桃慈をあんなふうに変えたのか。  京子はクリニックを早退した日、家に帰ると押入れをひっかきまわして卒業アルバムを探し出した。高校、中学、念のために小学校までさかのぼって確認したが、『はると』という人物は見当たらなかった。  帰宅した母に、それとなく話題をふってみたが、母の口から飛び出すのは同窓生の進学情報やゴシップネタばかりだった。  京子は桃慈に「はるとくんの家にお線香をあげにいきたい、住所を教えてほしい」とメッセージを送ってみたのだが、いまだ返事はない。  既読スルーに若干傷つきながらも、京子は内部の不安がどんどん膨らんでいくのを感じていた。    なぜ返事がないのか。ただ単にめんどくさいのか、それとも何か返せない理由があるのか……  京子は考え続けることを拒否するように左右に頭を振った。  どうせ、『途中で転校した子』とか、『名前の聞き間違い』みたいなしょうもないオチでしょ!  早くこの話にオチをつけたかった。次の休みに高校時代の担任に会いに行こう、と心に決め、京子は業務にもどった。  生徒は夏休みでも、教師はそうそう休んでいられないらしい。一年半前に卒業したばかりの母校に電話をかけ、当時の担任に都合を聞くといつでもいいとの返事があった。  在学中は何度も通った職員室までの廊下。開け放たれた窓からは部活動にいそしむ生徒たちの声や、吹奏楽部の楽器の音が風に乗って運ばれてくる。  来客用入口で借りたスリッパの歩きにくさが、もうこの学校を卒業したのだという実感を深める。  京子は職員室の前で一度呼吸を整えると、「失礼します」と一声かけてから入室した。  室内には数名の教師がおり、作業の手を止めて京子を注視していた。担任の姿を探し、室内を見渡すと、片手をあげるポロシャツ姿の担任が目に入った。  京子は軽く頭をさげ、彼の元へと向かった。  隣の席の教師の椅子を拝借し、簡単な挨拶をすませると、担任は本題に入った。 「それで、急にどうした?  なんか確認したいことがあるとか言ってたけど」 「えっと……、変な話なんですけど……、友人とそのうち同窓会をしたいねって話をしてて、そうしたらその子が「転校したはるとくんはどうするの?」って言いだしたんですよ。  私は「はるとくん」に覚えがなくて……、それでちょっともめたというか……気になって、先生に確認してみようって話になったんです」  担任はやや日に焼けた両腕を胸の前で組み、首をかたむけてほとへの間の音をもらしながら、記憶をたぐっているようだったが、京子を見ると 「転校した奴なんか、うちの学年いなかったんじゃないか?」 と、言った。  ふと思いついたように体を後方にひねると、 「ねぇ、岡部先生!一昨年の卒業生の代、転校した子いないっすよね?」  岡部先生と呼ばれた年配の教師はゆっくりとした動作でうなずいた。 「立花が卒業したのは一昨年だからな。さすがに転校したり、途中で来なくなった奴がいたら覚えてると思うんだよ……  それに岡部先生が言うなら間違いないと思うぞ」 「……やっぱり、そうですよね……」  浮かない顔の京子に、担任は少し身を乗り出すように近づくと、 「何かあるなら、相談にのるぞ」 と言った。  京子は笑顔を作ると、 「大丈夫です!きっとその子にからかわれたんですよ!  ……そういうオカルトちっくというか、怪談とか好きな子なので、私を怖がらせようとしたのかも」 両手を広げて胸の前で振りながら言った。  担任も表情をやわらげ、おんなのこはそういうの好きだよな、と朗らかに言った。  京子がさて、話を切り上げて帰ろうかと思ったその時、担任がふと思い出したというように口を開いた。 「そういえば……俺も不思議な経験があるんだよ」 「へぇ、そうなんですね」  さして興味がなかったが、次の瞬間京子は授業中に見せたことのない集中力で彼の話を聞くことになる。彼の話は、桃慈に関するものだった。

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