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第22話 大神神社
「カバンを取ってきますので、少し待っていてください」そう言い残して、折原瑚々 は、保健室を出て行った。
京子はベットの上で半身を起こし、心を静めるように大きく深呼吸を繰返した。目まぐるしく動いていく展開に、理解が追いつかない。
それでも……
京子はいつもより白い自身の手のひらに目を落として思った。
それでも、ここで止まりたくない。何が起きているのか、この目で確かめたい。
きゅきゅと学校指定のスニーカー独特の足音が、保健室へと近づいてくる。
からりと軽い音を立てて、ドアが開いた音がした。京子はベットから降り、さっと髪を整えると、キャメル色のショルダーバッグをつかんでカーテンの外に出た。
黒いリュックを背負った瑚々が、手に鍵を持って立っていた。
「じゃあ、行きましょうか」
言うと、京子にくるりと背を向けた。一緒にリュックについたうさぎのマスコットが揺れる。ころんとしたシルエットの真っ黒なうさぎ、なぜかビビットなピンクのぱんつをはいている。
ハレンチなうさぎと瑚々のイメージが結びつかず、じっとうさぎのチャームを注視してしまう。
あ。と瑚々が足を止め、首だけで京子を振り返る。
「先輩。大型犬って苦手だったりしないですか?」
京子は小首をかしげた。長い黒髪がさらりと揺れる。
「大丈夫。ワンちゃん飼ってるの?」
聞く京子に、なぜか複雑そうな表情を浮かべ、
「……飼ってるというか……。いるにはいるんですけど……まぁ……噛みついたりはしないんで……」
と歯切れ悪く答えた。
京子は首の角度をさらに深くしたが、瑚々はさっさと行ってしまうので、慌ててその後を追いかけた。
大神神社
海の近くの高台にあるその神社に京子たちは向かっていた。瑚々は遠縁の親戚にあたる大神家に現在居候しているという。
親戚は40代の男性で、犬のシロと暮らしているのだという。いくら神主、神職者とはいえ、男性と二人で暮らすことに不便はないかと京子が問うと、瑚々はリュックのなかから、なにやら黒っぽい機械を取り出してみせた。
瑚々の手でつかめる程度の大きさのそれは、クワガタのようなフォルムをしていた。
「……これって……、スタンガン?」
実物を見るのは初めてだった京子は、身をかがめるようにして瑚々の手の中の物を観察する。
「はい。使う必要はなさそうですけど」
京子は今度は瑚々へと視線を移す。リュックへスタンガンを戻す瑚々の表情はいたって平然としたもので、京子をからかっている様子もない。
「へぇ……。それはよかった……ね」
京子は自分でも間が抜けた答えだと思ったが、他になんと言っていいのかわからない。ショルダーバッグからハンカチをとりだすと、そっと額の汗をおさえた。
住宅の密集した小道を抜けると、視界が開けた。大きな4車線の道路の奥に海が見える。右手側には海にせり出すように山があり、その山の手前の高台に大神神社はあった。
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