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第24話 走れ!京子
「なるほどな……」
散歩の道中、これまでのことを大神に話した。瑚々 に話して聞かせたときよりもスムーズに話せたと京子は思った。
シロはリードをつけていないが、お行儀よく大神の隣を離れることなく歩いている。瑚々は大神と京子の後ろをついてきている。大きなヘッドホンをつけて音楽を聞いているようだった。話に参加するつもりはないらしい。
「忘れちまった方がいんじゃないか」
京子は驚いて大神を見る。
「高校時代の同級生ってだけだろ?
わざわざ面倒ごとを背負い込む必要はないさ」
「見捨てろってことですか?」
京子は表情を険しくして大神を睨みつける。大神は前を見たまま、京子と目を合わせない。
「その『はると』の正体がなんであれ、もうお前さんにできることなんてないだろ?
餅は餅屋だ。
もうこれ以上は関わらない方がいい。
彼を心配してここまでやったんだ。……十分じゃねぇか」
「……『はると』は何者なんですか?そもそも本当に存在してるんですか?」
大神は肩をすくめると、空を仰ぐ。
「さてなぁ……。佐藤くんとやらに会ったこともねぇ俺にはわかりっこないなぁ……」
京子はがっくりとして、口をへの字に曲げる。
こんな頼りない人に任せて大丈夫なのかしら……
「あの……失礼ですけど、法外な値段のお札売りつけて稼いだりされてます?」
「本当に失礼だな!
大神神社の神主だって言ってるでしょ?!
当神社では適正価格でお札を販売しております!」
「……そうですよね。大神さんってこう言ったらなんですけど、押しも弱そうだし、騙す側より騙される側というか……」
「……君、大人しそうな顔してけっこう言うね」
大神が頬を引きつらせながら、京子の憐れみに満ちた目を受け止める。シロが大神を見上げ、くぅんと慰めるように鳴いた。
京子は橋の上から海と川のつなぎ目を眺めた。まばらに白い海鳥が羽を休めている。空はどんよりと曇っていて海は青黒い。
「自分でもなんでって思いますよ。
特に親しい間柄でもないし」
海を眺めたまま、独り言のように京子は言った。大神からの反応はないが、きちんと聞いてくれているような気がした。
「でも……たぶん私は……」
京子は道路沿いにあるコンビニへと目を向けた。海を背にして建つコンビニ。以前、桃慈と偶然再会したコンビニだ。
「このまま全て忘れて、生きていく。そんな自分は好きにはなれない……
……そんな気がします」
京子は目をそらしてはいけないと自分に言い聞かせた。コンビニから出てきた背の高い男。桃慈だという確信が京子にはあった。
そうか……という大神のつぶやきを背に、京子は走り出していた。
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