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第27話 知る権利

 桃慈(とうじ)はよろめきながら両手を前に差し伸べた。春橙(はると)がシロに付き添われるようにしてこちらへ歩いてくる。  シロは、ときおり春橙の表情を確認するように見上げている。  この犬には春橙が見えているのか?  桃慈の脳裏をそんな疑問が通過していった。 「春橙!」  どうしてここに?聞こうとした桃慈に先んじて春橙は口を開く。 「とーじ。話を聞いてみよう」  なぜ知っている、どうして聞きたい、春橙への疑問が桃慈の脳内で渦を巻いた。 「必要ないよ」  桃慈はじっと春橙の目を見つめながら言う。不安げに悲し気に揺れる愛しい春橙の瞳。 「どうして知る必要がある?このままでいいじゃないか。何も心配いらないよ、春橙はオレが守るから」  春橙は桃慈から目をそらすと、ゆっくりと首を振った。 「春橙……」 「聞きたいんだ。ちゃんと知りたい」  春橙の伏せられた目を、閉じられた控えめに色づいた唇を見つめる。 「大丈夫。おれたちは何があっても一緒だ。  ……そう誓っただろ?」  春橙がすっと顔を上げ、自分の胸元を示した。穏やかな微笑み、桃慈は春橙の決意を感じた。自身の胸元を押さえ、二人の誓いのびい玉の存在を確認する。たしかにそれはそこにあった。小さくとも。 「そうだな、……そうだよな」  すっとシロが桃慈の目の前で座り、黒くクリクリとした瞳でひたと桃慈を見上げた。桃慈はそんなシロから目を離せず、その黒い瞳に自分が映っているのを見た。  桃慈はシロの頭へ手を伸ばそうとして、両手がふさがっていることに気づいた。両手の荷物をちらりと見ると、それらを片手にまとめ、空いた右手でそっとシロの頭を撫でた。  温かい……  シロには生き物のぬくもりがあった。そのぬくもりは自然と桃慈の心を落ち着かせ、ずっとつきまとっていた焦燥感――わけもなく急き立てられるような、時だけが進んでいってしまうような不安を和らげてくれた。  シロは立ち上がると大神たちの方へ数歩歩き、こちらを振り向いた。  ついてこいと言うようなしぐさに、桃慈と春橙は思わず顔を見合わせる。 「おん!」とこちらを見ながら不機嫌そうに鳴くシロに二人同時に吹き出し、シロの元へと向かった。  

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