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第29話 シロカトゥピㇼカオンルプㇱカムイ

「……あー……なんて言うか……まぁ、この神社で祀っているシロ……様です」  歯切れの悪く、シロを手で差し示しながら、大神は言う。  大神神社の拝殿内に、車座になって座る一同。拝殿の一番奥にシロ、時計回りに瑚々(ここ)、京子、桃慈(とうじ)春橙(はると)、大神の順で並ぶ。 「犬……の神様ってことですか……?」 「私は本来、狼の化身だ。人間たちはシロと呼ぶが、正式には……まぁ覚えられないだろうからシロで良い」  大神はかつてシロにしつこく指導されたことを思い出した。長ったらしい上に聞きなれない発音で、大神はおおいに苦戦した。結局、名前の頭のシロと呼ぶことで落ち着いたのだ。  大神は果敢にもシロに話しかけた京子に目を向ける。目に見えない同級生やら神様やら常識外の出来事のオンパレードだろうに、目の前の事態を理解しようと懸命に努力する姿に好感を抱いた。それと同時に老婆心が沸き起こる。この出来事は彼女の人生観を歪めてしまうかもしれない。  大神は誰にも気づかれないように、そっとため息をもらした。 「オレたちの願いを叶えてくれるんですか?」  声のした方に向き直る。桃慈の期待と同じくらい疑いに満ちた声。逆光で表情は見えないが、目だけがぎらりと濡れた光を放っている。何かをかばうように、守るように身を乗り出している。  まるで手負いの獣だな  大神は痛みに耐えるように目を閉じ、彼に……彼らにかける言葉を探した。 「なぜ私がいちいちお前たちの願いを叶えてやらねばならないのだ」 「うぉい!!」 「……神様って案外ケチなんですね……」  シロの身も蓋もない言い方に、大神は思わず大声を上げ、京子はむっとしたように文句を言う。 「ちょっと!!ケチとか言わないよ!!これでも神様だからね!!」 「ケチとはなんだ!!ケチとは!!」  京子は隣に座る瑚々にひそひそと何やら囁き、シロをちらちらと見ている。 「そこの女子たち!!そういうの感じ悪いよ!!良くないよ!!」 「シロも!!言い方ってもんがあるでしょ?!」  幼稚園じゃねぇんだからよ、勘弁してくれよと……謎の疲れを感じながら、恐る恐る桃慈を見る。  桃慈は目を伏せるようにして、身を寄せ合うようにしている。おそらく春橙と身を寄せ合っているのだろう。心を閉ざし、二人の世界に籠ってしまったように見える。 「……別に私が出し惜しみしているわけではない。  願いを叶えるのは結局のところ自分自身だ。私が介入して叶えたとて碌な結果にはならないし、本当の意味で願いが叶ったことにはならん。  ……まぁ舞台を整えることくらいはできるが、そこから先は本人次第だ」  珍しく反省したのか、空気の重さに気づいたのか、弁明するように言葉を重ねるシロ。  京子は桃慈を心配そうな目で見ると、責めるような目をシロに向ける。 「じゃあ、なんでここまで連れてきたんですか?わざわざ何もできないって言うためですか?」  京子の剣幕に鼻白むシロ。シロの言い分は正論ではあるが、救いを求める人間に届くとは限らない。大神はやりきれない気持ちでなりゆきを見守った。 「……いろいろと理由はあるが、春橙……といったな、その魂を幼い頃のその者と引き合わせたのは私だからだ」 「は?!」「へ?!」「!?」  シロと瑚々以外の驚きの声が重なる。  こいつ……また気まぐれでそんなことを……  大神が眉間にしわを寄せて、口元を引きつらせていることにも気づかず、シロは悠々と語り始めた。 「幼いまま命を落としたこの者を少々哀れに思ってな。  2、3日もすれば自然とあるべきところへ還ると思っていたのだが……  まさかこうも成長しているとはな……」 「そんな無責任な……」 「私は舞台を用意した。  この世に留まりたい、この者と一緒にいたいという念がよほど強かったのであろう  この世の理を捻じ曲げるほどにな」 「たしかに。未練を残してこの世に留まり続ける者は少なくないが、一緒に成長するってのは……少なくとも俺は聞いたことがない」  呆れたような顔をしていた京子だったが、シロと大神の発言を受け、切なさと恐怖を瞳に滲ませた。 「それじゃあ……はるとくんは……佐藤君を連れていこうとしてるんですか?」 「オレたちはずっと一緒だって誓い合ったんだ」  桃慈はこちらに視線を向けようともせず、抑揚のない声で言った。 「でも……このままは良くないよ……  二人にとっても……」  辛そうに形の良い眉をゆがめながら京子は言った。桃慈には京子の言葉も視線も届かないように、ぴくりとも反応しない。ただある一点を慈しむように見つめ、ときおり微笑みかけている。京子も桃慈に届くことを期待してはいないように思えた。それでも、言わずにはいられなかったのだろう。  話がそう単純ならいいんだけどな……。問題が春橙だけにあるのなら。  大神は胸に広がる苦々しさを感じながら、やつれはてながらも必死に春橙を、春橙との未来を守ろうとする桃慈の頑なな横顔を盗み見た。 「まぁ、なんだ。  一時休戦。みんなでめしでも食おうや」 「こんなときに……」 「こんなときだからだよ。  腹が減れば感情も乱れるし、考えもまとまらない。  にぎりめしくらいしか用意できないけどな」  焦れる京子をいなし、大神は立ち上がると、瑚々を伴い台所へと向かった。 

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