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第30話 おにぎりあがらっしゃい

 大神はお盆の上に山盛りの塩むすびを載せて拝殿へと戻った。瑚々(ここ)の持つお盆には、あとはお湯を注ぐだけの即席味噌汁セットが載っている。  中央にどん!とおにぎりの山を置く。艶々と光り、湯気を立てている。形もサイズも整っているおにぎりが大神作で、形はきれいな三角なのに、サイズがまちまちなのが瑚々作だ。  瑚々が紙皿と箸を配り、大神が即席味噌汁に湯を注ぐと京子が給仕を手伝ってくれた。  おにぎりはセルフサービスだが、シロの皿にだけおにぎりを一つ置いてやり、さていただこうとしたそのとき、シロから鋭い制止の声がかかった。  シロの真剣な眼差しを正面から受ける大神。 「このにぎりめしの中身はなんだ?……よもや梅干しではあるまいな」 「……」  大神は無言で視線をそらす。 「ふざけるな!梅干しなど……この私が気づかず食べればどうなると思う!」 「アレルギーか何かですか……?」  言いながら、いただきますと手を合わせ、小さめのおにぎりに手を伸ばす京子。瑚々は大神の作ったおにぎりを3つほど皿にキープしている。 「梅干しの何が悪い?クエン酸で疲れはとれるし、何年でも保存がきく。人間の生み出したすばらしいご飯のお供だぞ」 「好かんものは好かん」  梅干しの素晴らしさを説く大神に、ぷいと子どものようにそっぽをむくシロ。 「ふざけんな!お前の嫌いな理由ってあれだろ!?  『私の美しい顔が崩れるから』とかそんなしょーもない理由だろ!?」 「梅干しなど食べたら酸っぱい顔になるだろう!  とにかく、私は梅干しは嫌だ!!」 「いいから食え!梅干しと梅干を毎年丹精込めて漬けてくれるフサさんに感謝しながら食え!」  桃慈はシロと大神のやり取りを見て、春橙と笑い合っているようだった。大神には見えないが額を突き合わせるようにして、クスクス笑い合っているのだろう。文鳥のつがいのように仲睦まじく。  大神は桃慈と春橙の皿にどん!どん!とおにぎりを置いた。 「食え!  まさかお前らまで食えないとか言わないよな?」  凄むように仁王立ちで見下ろすと、桃慈は小さくいただきますと言い、おにぎりを口にはこんだ。  一口かじり、ほっとしたような、はっとしたような顔をすると、 「美味しい……」 と、ぽつりと、思わず口からこぼれたというように言った。    大神は安心したように口元をゆるめ、「そうか。いっぱい食べろよ」と言った。  シロを振り返るとそっぽを向いたまま、口をへの字に曲げている。腕を胸の前で固く組み、絶対に食べないという強い意志を示しているようだ。  大神は頭の後ろをがしがしかくと、 「あー!もう!わかったよ!!シロ様にはおいなりさんね!わかったよ、ったくめんどくせーな!」 苛立ちを滲ませた。  シロはその言葉を聞くと、大神を見て春の雪解けのように表情をほころばせた。もしシロが犬の状態であったなら、尻尾をぱたぱたと揺らしていただろう。  もう、いっそずっと犬でいたらいいのに……  大神はひどく疲れた気持ちで、再度台所へと向かうのだった……。

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