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第69話

 まさか、ロドルフと初めてのキスをするとは思ってもみなかった。 「はっ……! で、殿下、申し訳ございません!」  エドワードは首を横に振った。 「いいよ。ねえ、もう一回してみて。なんだか落ち着いたの」 「で、ですが……」  ロドルフは戸惑いを見せていた。なぜ先ほど触れてきたのだろう。偶然触れてしまっただけなのか。  拒む様子のロドルフに、エドワードはぐいと近づく。 「お願い、もう一回!」 「……分かりました」  硬い表情のロドルフの顔が再び近づいてきて、エドワードの唇にそっと触れた。  明らかに緊張しているようだが、やはり触れている柔らかいところはとても気持ちがいい。  エドワードは唇に意識を集中させたくてそっと目を閉じた。ロドルフから伝ってくる水滴の感覚もすっかりなくなり、エドワードにはロドルフの熱しか触れていなかった。  落ち着いている。もう一度キスしてもらいたくてとっさに出た言葉だったけれども、エドワードの全身が徐々に熱くなくなっていた。  それでも鼓動が高鳴っているのは、キスされているせいなのか。  勝手に発情するのとは異なり、嫌な気分ではない。王子と専属騎士という関係であるにもかかわらず、このままずっとロドルフと触れていたいとさえ思っていた。

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