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第11話 届いてほしい。だから、好きって伝えたいんや
そらは、すぐには返事をしなかった。
でも、ゆっくりと顔を上げて、
いつもより少しだけ真剣な目つきで、口を開いた。
「……まあ、啓太朗さんの言ってることも、わかりますけどね。
俺、地元は結構好きやけど……
なんていうか、息が詰まる……みたいなことは正直あります。
どこで何してても全部つつぬけやから」
啓太朗は、黙ってそらの言葉を聞いていた。
「……啓太朗さん、なんか悩んでるんですか?」
静かな波の音が、間を埋めるように寄せては返す。
「いや、別に、詮索したいわけちゃうんですけど……
俺にはわからん苦労もあるやろし、何かできるわけでもないし、
聞いたところでどうにもできんことかもしれんけど……」
そらは視線を遠くの夜景に向けたまま、少し声を落として続けた。
「でももし、なんか話したくなったときは、俺に言うてください。
俺に言うて楽になるなら、なんぼでも聞きますから」
そう言い終えたあと、そらはちょっとだけ照れくさそうに笑った。
啓太朗は横でその言葉をじっと聞いていて、やがて、ふっと肩の力を抜くように息を吐いた。
「……ありがとな、そら。頼りになるやん」
ふたりの間に、波音だけが静かに満ちている。
その音を、心臓の鼓動が内側から押しのけてくる。
(言おう。今しかない。……でも、怖い)
そらは、唇を軽く噛んで、小さく息を吸い込んだ。
「……なんか、この流れで言うのって、ちょっとずるい気するんすけど」
隣に立つ啓太朗の横顔をちらりと見て、でもすぐに視線を夜景に戻す。
「俺、啓太朗さんのこと……めっちゃ好きです」
波の音が、そらの声の余韻をそっとさらっていく。
「初めて会ったときから、ずっと、ずーっと気になってて……
なんかもう、これってたぶん――初恋やなって思ってます」
顔が熱い。声が少しずつ小さくなるのを、必死にこらえて言葉を続ける。
「こんなに、誰かのこと、ちゃんと好きになったのって初めてで……
だから、啓太朗さんが何か悩んでたり、しんどいときには、俺が聞きたいし、力になりたいんです」
そらの手のひらが汗ばんでくる。けど、もう止まれない。
「年下の俺がこんなこと言うのも、変ですけど……
でも、もしよかったら――俺に、頼ってください。
頼られるような、ちゃんとした人になりたいって、そう思ってます」
ひと呼吸。
そして、真っすぐにその瞳を見て――
「啓太朗さん。
……よかったら、俺と付き合ってもらえませんか」
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