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第12話 届いてほしい。だから、好きって伝えたいんや
言い終えたあと、そらはまっすぐ啓太朗の顔を見つめていた。
胸の鼓動が、苦しいくらいに速い。
それでも、目だけはそらさなかった。
ここでそらしたら、きっともう二度と、伝えられない気がしたから。
啓太朗は、そらの視線をほんの一瞬だけ受け止めた。
けれど、すぐに目を伏せる。
静かな沈黙がふたりの間に落ちた。
そして、啓太朗はぽつりとこぼすように言った。
「……ごめん、そら」
その声は、とてもやさしくて、でも確かに、届いてしまった。
「……それは、受け取れない。ごめん、本当に」
下を向いたままのその横顔からは、表情がよく見えなかった。
でも、そこにある“何か”を、そらは感じ取っていた。
心の奥で、何かがそっと崩れていく音がした。
だけど、笑って誤魔化すことも、泣いてぶつけることも、できなかった。
「……理由って……聞かせてもらえます?」
絞り出すような声だった。けれど、そらはちゃんと届くように言った。
啓太朗はしばらく黙っていたけれど、やがてゆっくりと首を横に振る。
「そらは……何も悪くない。ほんまに。
これは俺の問題……ごめんな、ずるくて…………」
それだけ言って、そっとそらを見て、ふたたび視線をそらす。
夜の空気が、ひんやりと肌をなでた。
さっきまであんなに熱かった胸の奥が、すうっと冷えていく。
「……帰ろか」
そらは無言で頷き、ゆっくりと助手席に乗り込む。
車内には、前と同じ曲が流れていた。
そらが“好き”だと言った、あの優しいメロディ。
でも今は、それが少しだけ切なく響いていた。
ふたりとも、何も話さなかった。
車窓を流れていく街の灯が、心の隙間を通り過ぎていく。
やがて、そらの家の前にたどり着く。
「……バイト、頑張ってな。次は……お盆明け、やな」
そう言った啓太朗の声は、いつもより少しだけ遠かった。
それでも、最後まで優しかった。
「……はい」
そらはそれだけを返して、ドアを開け車から降りた。
車が走り去っていく音を、そらはただぼんやりと聞いていた。
風が吹くわけでもなく、虫の声が騒がしいわけでもない。
なのに、耳の奥がキーンとして、世界が急にぼやけて見えた。
気づけば、家の前で立ち尽くしていた。
何分、そうしていたんやろう。
「……そら?」
聞き慣れた声が、ふいに背後から届く。
顔をあげると、自転車にまたがった涼が、コンビニの袋を持ったまま立ち止まっていた。
「どないしたん、こんなとこで……って、え……そら、お前……」
その瞬間、そらの目から涙が一粒こぼれ落ちた。
そして……崩れ落ちるようにその場にしゃがみこんだ……
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