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第34話 坂道とホームと、大好きの声

――その後ろで。 「……うわ……こいつ……やったった……!!」  涼が目をまんまるにして、半ば呆れ顔でつぶやいた。 「ほんまにやったったで……ど直球の全力告白……」  周囲の空気が、ざわざわと揺れはじめる。  ホームにいたサンサンパークのバイトメンバーたちも、  ぽかんとした顔でこちらを見ていた。 「え、お前ら……まさか、わざわざ見送りに来たん?」  大学生の先輩がそう言って、そらに声をかける。 「……まあ、そうっすね。お世話になったんで」  そらはできるだけ平静を装って答える。  すると、別の先輩がちょっと笑いながら言った。 「いやでも、お前……さっき『大好き』って……」  その瞬間――  そらの顔が、ぱっと赤くなる。  凍りついたみたいに動きが止まり、返事に詰まっていると――  すかさず、涼が前に出た。 「あーっ、アレっす。あの、先輩として、人として、  尊敬してるって意味での“好き”っす。  そういうアレっす、ね? な? そら?」 「う、うん、そうそう、そういうことっす。  俺、先輩たちのこと、ほんまに尊敬してて。  みんな大好きですからね、俺」  あたふたと手を振るそらに、先輩は「あー、なるほどね」と納得したようにうなずいた。 「そうなんや。いや~、びっくりしたわ。  こんな公衆の面前で、めっちゃ告白するやんって思ったし」 「……しませんし……」  そらが小声で返すと、涼が横でニヤニヤしていた。  そらと涼がバイトメンバーたちに囲まれながら、 なんとなくその場の空気が和み始めた頃だった。 「……なあ」  ぽつりと、一人の女の先輩が口を開いた。  ショートカットの大学生、サンサンパークで毎年レギュラーで入ってる先輩だった。 「君ら……高校生やんな?」 「……え?」 「で、今日……平日やんな?」  みんなの顔が、ピタッと止まる。  先輩は首をかしげながら、ぐいっと追い打ちをかける。 「授業は?……何してんの?君ら」  ……沈黙。  ものすごい無音の間のあと、涼が咳払いしながら口を開いた。 「あ、あー……いや、あの……今日はたまたま……  二人とも朝ちょっと、お腹痛くなっちゃって……  で、学校休んでるんですよね……」  めちゃくちゃ苦しい言い訳に、  そらがこっそり「ちょ、バレバレやん」って小声でツッコむ。  涼はそのまま押し切る。 「でもなんかこう、回復してきたんで……  じゃあ見送り行くかってなって……みたいな……」  ――バチン! バチン!  二人の頭を軽く叩いたのは、別の大学生のバイト先輩。  サンサンの古株で、ちょっと怖いけど面倒見がいい男の先輩だ。 「アホか!ちゃんと学校行け言うとるやろがい!  バイトばっかりしとったらアカンのや!!  学生の本分は勉強じゃボケェェェ!」 「す、すいません……!!」 「き、気をつけます……!!」  二人はぺこぺこと頭を下げる。  それを見た先輩たちも、なんだかんだ笑いながら、 「ほんま青春やな〜」と口々に言っていた。  やがて、ひとりがぽつりと呟いた。 「……まあでもさ、来年もまた、このメンバーで集まるやろな」  別の先輩がうなずく。 「そうやな。……黒川くんは来年、就活やし。  あいつも、次の夏がラストやな。サンサンの夏」  そらは、遠くに消えていった新幹線の線路の先を見つめながら、ぽつりと言った。 「楽しかったな、今年の夏……  また、みんなで会えたらええな」 「ほんま、それな」 「集まろうや、絶対」  小さな駅のホームに、秋の風がそっと吹き抜ける。  バカみたいに全力で走って、  笑って、泣いて、伝えて――  あの夏は、たしかにここにあった。

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