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第41話 覚悟しといてな
ベッドの上で、そらはごろりと寝転んだまま、スマホの画面を見つめていた。
LIMEのトーク画面には、たった一行。
「次は6月2日ね。楽しみだね」
――うわ、やば。
画面の中の文字が、やたらと甘く見える。
にやけそうになる口元を押さえても、もう無理だった。
指先でそのメッセージをなぞりながら、そらは今日一日のことを思い返す。
……あの、濃密すぎるキスのあと。
新幹線の時間まで、俺たちは手をつないだままずっと話していた。
出会った日のこと。
第一印象はどうだったか。
二人は答え合わせをするように話す。
「俺はあの日、ただ新しい先輩が来たってだけで、何となく目を奪われて……
声をかけられた瞬間、めちゃめちゃドキドキしたの、覚えてる」
「そうなんや。俺は可愛いくて元気な子がおるなぁって思ったなぁ。
きっと一目惚れやった思うよ」
「絶対嘘でしょ?うるさかっただけちゃいます??」
それからすぐに好きになったこと。
お互い、最初の頃は口に出さなかったけど、あれはきっと同じだった。
笑いながら「そらはわかりやすかったなぁ」って啓太朗に言われて、そらも「啓太朗さんも、そこそこでしたけど?」って返した。
夜景を見に行った日々――。
どの景色もきれいやったけど、俺は横に立つ啓太朗さんの横顔ばっかり見てた。
そんなことを言ったら、啓太朗は少しだけそらの手を強く握って、
「……俺も、そらしか見てなかったよ」って、低い声で笑った。
――あれも、これも。
ぜんぶ、今日みたいにあったかくて、大事な思い出だった。
そして、ふいに啓太朗が声を落とした。
「……最後に、大事なこと話していい?」
少し間を置いて、彼はぽつぽつと語り出した。
「だいぶ遡るんだけど……中学のとき、好きな子がおったんよな」
そらは無言で頷く。
啓太朗は、静かに続けた。
「俺は、女の子でも男の子でも、好きになるときは好きになるんやけど……
そのときは、クラスの男の子やった」
たまたま相手も同じ気持ちで、放課後はよく一緒に帰っていたという。
「で、ある日……ほんの出来心で、手をつないだんよ」
そこで、彼の声に苦い色が混ざった。
「……それがあかんかった。近所の人に見られてて、すぐに噂になって――」
啓太朗は、短く息を吐く。
「もうそこからは……地獄よな」
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