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第43話 覚悟しといてな
「いいです。聞きます」
「……俺の就職先、大阪やねん」
啓太朗は、そらの目をまっすぐ見ながら、ゆっくりと言葉を継いだ。
「だから、地元から通えんこともないけど……毎日出勤するとなるとやっぱ遠いから、一人暮らしすることにした」
少し笑って、そらの手をやんわり握る。
「……なんか、自分の価値観押し付けるみたいで、正直あんまり言いたくなかったし、知ってほしくもなかったんやけど……
俺は、あんまり地元が好きじゃないんや」
そらは、意外そうに瞬きをした。
「ええやつもおる。友達もいっぱいおるし……そらにも会えた。だから、それは感謝してる」
そう前置きしながらも、啓太朗の声は少し低くなった。
「でも……俺にとっては、監獄みたいやった」
そらは息をのむ。
「ちょっと話した一言が、大きな尾ヒレをつけて噂になる。
ちっちゃな行動ひとつでも、誰かが見てて、どこにいても監視されとるみたいで……息が詰まる」
その口調は淡々としていたが、目の奥に沈んだものがあった。
「親父も親父でさ……大変なんはわかる。あの人、婿養子やから。お母さんの籍に入ってるんよ、お見合いして。
プレッシャーもすごかったんやろなと思う。だから……息子の“悪癖”に敏感になってたんやと思う」
そらは、胸の奥にひやりとしたものを感じた。
ここでいう“悪癖”が何を指しているのか、もう分かっていたからだ。
「……でもな、だからって攻撃するのは違うやろ? やから、俺はそらを守りたかった。
親父からも、地元からも……」
啓太朗はそこで、少し自嘲気味に笑った。
「まぁ、地元が好きで上手くやってるそらからしたら、何いうてんねんって話やけどな」
そらは否定も肯定もできず、ただ握られた手に力を返す。
「……だから、今の会社に決めたんや。地元おるより会えへんけど、かといって東京みたいに距離があるわけじゃない。毎週末会えるようになる」
視線を合わせたまま、啓太朗はふっと笑う。
「だから……また家に泊まりに来てほしいなって」
そらの表情を確かめるように、さらに続けた。
「それに、そらの第一希望のに大学にも電車一本で行けるんやで?……そこまで考えて就職先、決めてきた」
小さく胸を張って笑う。
「俺、偉くない?」
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