44 / 60
第44話 覚悟しといてな
「偉い。偉すぎます。……もう、やっぱり啓太朗さん最高」
そらはそう言って、勢いよく啓太朗に抱きついた。
胸に顔を押しつけるように、思いっきり、ぎゅっと。
「そうやろ?」
啓太朗も笑いながら、そらの背中に腕を回す。
和やかな空気がふわりと広がった。
「……あ、そうや。啓太朗さん」
そらは少し顔を上げ、いたずらっぽく笑った。
「俺、志望大学、ちょっと視野広げてみようと思ってるんです」
「そうなん? どこ受けるん?」
「俺、ほんまにたまたまなんですけど……大阪の教育大も受けてみようかなって」
そらは、照れたように鼻先をかいた。
「今よりもうちょっと偏差値上げなあかんのですけど……啓太朗さんと会えへん鬱憤を勉強にぶつけてたら、
俺、いつの間にかめちゃめちゃ賢くなってたんで」
そう言って、いたずらっぽく笑った。
「で……ちょっと相談なんですけど」
そらは少しもじもじしながら口を開いた。
「六月二日の日、一日会う約束してたんですけど……
たまたま、大阪の教育大のオープンキャンパスなんすよね。
だから俺もめっちゃ一緒におりたいんですけど……
午前中はオープンキャンパス行ってきてもいいですか?」
「それは行ってきて。もう存分にいろいろ見てきて」
啓太朗は即答し、少し笑みを浮かべた。
「……俺もその方が都合いいねん」
「どういうことですか?」
そらが小首をかしげると、啓太朗は少し視線を外して言った。
「その日、もともと大阪デートしようと思っとったから」
「……えっ?」
そらは目をぱちくりさせて、思わず固まる。
「びっくりするよな」
啓太朗は苦笑しながら、少し肩をすくめる。
「やっぱりまだ、地元を二人で明るい時間にうろうろするのは……ちょっと気が引けてもて」
ふっと視線をそらに戻し、口元をゆるめる。
「もうさ、思いっきり手つなぎたいやん。
イチャイチャしたいやん。
だから……誰の目線も気にせず一緒におれる大阪がいいかなと思っとって。
……どう?そら」
「行きます!!」
そらは間髪入れずに答え、顔をぱぁっと輝かせた。
「啓太朗さんと大阪デートとか……もう、最高やん!」
啓太朗は笑いながら、そら細い体をしっかり抱きしめる。
嬉しさで二人の腕の力が強くなる。
頬と頬が触れる距離で、温かい息が混ざった。
そのまま、啓太朗がそらの耳元にそっと顔を寄せる。
「……俺、その日ホテル泊まるから」
低く甘い声が、耳に直接落ちてくる。
そらは一瞬まばたきをして、息を呑んだ。
そして、さらに近づいた啓太朗が――
「意味、わかる?」
ともだちにシェアしよう!

