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第47話 そして、夏は君と始まる
「そら、どっか行きたいとこある?」
「あっ……」
聞かれて、口を開いたものの言葉が出ない。
「俺……会えることで浮かれてて、どこ行きたいとか全然考えてなかった……」
自分で言ってちょっと焦る。
啓太朗はふっと笑った。
「そうやと思ったわ。俺、適当に調べといたから、そこでええ?」
「あ、全然!……お腹空いてますよね?」
「うん。なんか近くで、自分でたこ焼き焼いて食べれるとこあるらしいねん。行かへん?」
「えっ、めっちゃ面白そうっすね!行きましょ!」
店に入ると、鉄板を囲んだカウンター席に案内された。
丸い鉄板の穴に生地を流し込み、具材を入れて、竹串でくるくる回す。
焼ける匂いと、立ち上る湯気。
うまく丸くできたときは「見てください、完璧ちゃいます?」と自慢し、
形が崩れれば「うわ、やらかした!」と笑い合った。
熱々を頬張って、口の中でソースと生地の香りが広がるたび、自然と笑顔がこぼれる。
「じゃあ次は……景色がきれいに見える展望台、行こか」
電車とエレベーターを乗り継ぎ、展望台に上がると、
足元から街の景色が一望できた。
ビルの群れの間を縫うように川が流れ、遠くまで広がる青い空と白い雲。
光に照らされた街は、夜とはまるで違う表情を見せていた。
「……なんか新鮮やな」
啓太朗が窓の外を見ながら呟く。
「ですね。夜景しか見たことなかったけど……昼もいいっすね」
そらも、目の前に広がる景色に見入る。
太陽に照らされた建物は、どこかあたたかくて、街全体が生き生きとして見えた。
しばらく、二人で無言のまま景色を眺めていた。
その静けさの中、啓太朗がふと真顔になって、そらの方へ視線を向ける――。
「……そら、今日は帰らなあかんやろ」
「……え?」
「だから、ちゃんと今日の終わりの時間と電車の時間、決めとこ」
その言葉に、さっきまでの浮かれた気持ちがふっと引き締まる。
胸の奥で、ドキドキが違う意味を帯びて響き始めた。
――今日が終わる時間を、今、決める。
その現実が、急に目の前に立ち上がってきた。
啓太朗の真顔に、胸がきゅっと縮こまる。
その気配を感じ取ったのか、彼はふっと笑って肩をすくめた。
「いや、そんな急にシュンって落ち込まんとってえや」
柔らかい声に少しほっとする。
「……そんな、初めてのデートで泊まりはあかんやろ?
親御さんにも、ちょっと悪い気するし」
「だから電車の時間は決める。でも、その時間まで思いっきり楽しむ……そのために、今決めとくんやで」
そう言って、軽く俺の肩をポンと叩く。
「そもそも、そら……あと残り時間、分かってる?」
「……え?」
「ってか、今日の目的、分かってる?」
少しだけ口元を上げて、いたずらっぽい目を向ける。
「……そろそろチェックインできる時間なんやけど。どうする?」
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