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第58話  Forever, You【SS】side~keitarou

久しぶりのバイトに少し疲れていたが、 今からそらに会えると思うと、その疲れも一瞬で吹き飛んだ。 そらより先に上がったので、 「車で待ってるよ」と一言メッセージを送る。 車内で音楽もかけず、窓の外を眺めながらそらを待つ。 すると、スマホが鳴った。 開いてみると、そらと涼が並んで、 おばけとゾンビの衣装を着たツーショットが送られてきた。 『今年初なんで記念に撮りました。  今からそっちに向かいます』 思わず、顔の筋肉がピクッと動く。 自然と口元が緩み、ハンドルに顔を突っ伏した。 啓太朗は涼に嫉妬しつつも、即座にその写真を待ち受けに設定した。 ちょうどそのとき、 コンコン、と窓を叩く音がする。 「遅くなってすみません!今日どこ行くんですか?」 助手席に乗り込むなり、そらが楽しそうに聞いてきた。 啓太朗はハンドルを握りながら、少し笑う。 「まずは軽くご飯食べよか」 「やったー!どこですか?」 「この前オープンしたラーメン屋、行ってみる?」 「行く行く!めっちゃ気になってました!」 初めて行ったラーメン屋は思いのほか当たりで、 そらはスープまできれいに飲み干して満足げだった。 「美味しかった……幸せです」 そんなそらの顔を横目に、啓太朗は満足げに頷き、車を走らせる。 「さあ、ここからが本番やで」 「え、どこ行くんですか?」 「さあ、どこやと思う?」 「えー、ヒントください!」 「うーん……行くから、想像してみて」 からかうように笑いながら、車を走らせる。 やがて、見覚えのある道に差しかかると、そらがはっとした顔で言った。 「この道って……もしかして、しのみダムですか?」 「正解」 「わぁ、この道、懐かしい……!」 「せやな。。やっぱ、一番に行こかな思って。 あそこ、俺も好きな場所やから」 ハンドルを握りながら、啓太朗は少しだけ真面目な声になる。 「でもな、最後ちょっと悲しい思い出の場所になってもたから……  今日で挽回しようかな思って」 「うわ、そんなこと考えてたんですか」 そらは少し目を丸くして笑った。 「俺は、啓太朗さんと行った場所はどこも宝物ですけどね」 その一言に、啓太朗は不意に撃ち抜かれた。 そらの真っ直ぐで前向きな言葉に、いつも救われる。 運転しながら、ふっと笑みがこぼれた。 「さあ、もうすぐ着くで」 「うわー、めっちゃ楽しみ!もう、すでに空が綺麗やもんな」 浮き足立った声に、啓太朗も思わず笑う。 しのみダムに着くと、そらは助手席から飛び出して、 そのまま川の方へ駆けていった。 「うわー……やばい、やっぱりめっちゃ綺麗!  ほんで空気も澄んでるし、最高や!」 満足げなそらの姿を見て、啓太朗の胸もじんわり温かくなる。   二人は前回も座ったダムの上に腰を下ろした。 会えなかった一ヶ月半の話を、ぽつぽつとし始める。 ……といっても、啓太朗はそらの話に相槌を打つばかりで、 ひたすらそらが話している時間の方が長かった。 学校の授業のこと、模試のこと、受験のこと、 それからバイトの裏話まで。 啓太朗は、一言一句も聞き逃さないように耳を傾けていた。 「……あ、俺の話ばっかりですいません」 そらが少し照れくさそうに言うと、啓太朗は柔らかく笑った。 「ええよ。そらの話、聞くん好きやから」 そう言いながら時計をちらりと見た。 「てか、今もう八時やけど、門限とか今日は大丈夫なん?」 その瞬間、そらの頬がぽぽぽっと赤く染まり、視線が落ちる。 「そら?」 覗き込むように顔を覗くと、そらは小さな声で言った。 「あの……今日、その、俺、親に帰るの遅くなるって言ってきました。  日、越えるまでには、帰るからって言ったんで……  時間、まだまだあります……」

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