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君が見つけてくれた ──誰にも気づかれなかった存在が、たった一人に見つけられる話 第2話 黒髪の天使と駐輪場 | えなが つぐみの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
君が見つけてくれた ──誰...
第2話 黒髪の天使と駐輪場
作者:
えなが つぐみ
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第2話 黒髪の天使と駐輪場
滝沢 玲央
(
たきざわ れお
)
。 俺たちの通う工業高校、情報科の生徒だ。 女子顔負けの美貌に、優しくて物静かな性格。 いわゆる“学年のアイドル”的な存在だ。 男子にしては小柄で、細身の体。 柔らかそうな黒髪は少し長めで、まつげに縁どられた艶のある瞳。 その目で見つめられただけで、誰もが「心を掴まれた」とか言ってる。 俺も一度くらいは話してみたいな、なんて、ぼんやりと思ってた。 彼みたいな“伝説級美少年”と一言だけでも交わせたら、きっと良い思い出になるだろうって。 ……でも。
『──この変態野郎』
なんで初対面で、そんなセリフを浴びる羽目になったんだ、俺。 いや、べつに“変態”って言われて喜んでるわけじゃない。 ただ、あまりにも想定外すぎて……夢にも思わなかったって話。 あの衝撃的な出会いのおかげで、午後の授業は上の空だった。 いつのまにか放課後になっていて、ぼーっと滝沢くんのことを考えながら、原付きが置いてある人けの少ない駐輪場に向かっていた。 この駐輪場は正門から離れていて、あまり使われていない。 俺の原付きの定位置になっている西側の隅に到着し、俺の心臓は跳ね上がった。 「……滝沢くん?!」 原付きの横で体を縮ませてしゃがみこんでいる。 ──何かから隠れるように 「なっ!おまえ………」 滝沢くんも俺の姿を見て驚いているようだ。 「滝沢くん、どうしてこんなところに?具合悪いの?」 滝沢くんがあたりを警戒しながら俺に小声で話しかける 「っ……ちょ……おまえ、早く、こっちこい!」 滝沢くんは俺の手をグイッと引っ張り、自分の横にしゃがませた。 俺は180近い体をなんとか縮ませて滝沢くんの横で小さくなった。 何か喋りだしそうな俺の口を彼の手が塞ぐ。 思ってたよりも、ちゃんと男子の手のひらだ。 肩が触れるほどの距離で、俺と滝沢くんは息を殺してしゃがみこんでいた。 四月の夕方。ほんのり冷たい空気が、妙に緊張感を煽る。 西の空には、まだ沈みきらない太陽。 優しいオレンジ色が、滝沢くんの柔らかそうな黒髪をふわりと照らしていた。 「モゴモゴ……(きれい……)」 「おい、俺の手の中で息すんじゃねーよ」 「モゴモゴ……(そんな……)」
──ザクッ、ザッ、ザッ……
砂利を踏むような音が、すぐ近くから聞こえてきた。 駐輪場の壁の裏。誰かが歩いている。 滝沢くんがピクリと肩を震わせる。 その横顔を盗み見て、俺は思わず心配になった。 俺は彼を気遣うように目を向けつつ、音のする方へ視線を向けた。 壁の下から、男子生徒の足がちらりと見えた。 「……いないなぁ」 低くつぶやく声が、壁の向こうから聞こえてくる。 隣で、滝沢くんが固まった。 あの強気な彼が、こんなに怖がるなんて。 よほど厄介なことに巻き込まれてるんだろうか……。 ふと、あのときの言葉が脳裏をよぎる。 『あいつら、俺に気安く触りやがって。 気持ちわりぃな、くそが……』 初めて会ったとき、滝沢くんがぼそぼそと呟いていた言葉。 ──まさか、この壁の向こうにいるやつに 彼は、何か酷いことをされてるんじゃないか……? 俺はそっと滝沢くんの手を口元から外し、そのまま彼の目を見た。 そして、迷いなく立ち上がる。 滝沢くんは目を見開いて俺を見ていたけど、構わず壁の向こうへ歩き出した。 壁の裏。 ひとりの男子生徒が、俺に背を向けてあたりを見回している。 「ねえ、どーしたの?こんなとこで」 俺はできるだけ平然を装って声をかけた。 「……ああ、自動車科の。滝沢くんを探してんだよ。見なかった?」 声は妙に自然で、まるで何事もないようだった。 「ここに来るまで、誰にも会わなかったけど?」 そう答えると、男子は「……そっか」と呟いて、校舎のほうへと去っていった。 ……ふぅ。 軽く息を吐いて、急いで滝沢くんのもとに戻る。 彼はまだ、原付きの陰で小さく丸まっていた。 「もう、いなくなったよ」 俺の声に、滝沢くんがゆっくり顔を上げる。 眉を少し寄せて、どこか気まずそうに俺を見た。 「……ありがと」 風が吹いたら、かき消されそうな小さな声だった。 俺は踏み込んで聞いていいことなのか少し躊躇した。 でも、ただ事ではなさそうな滝沢くんのようすを放っておけなくて、静かに声をかけた。 「あいつが戻ってくるかもしれないし、ちょっと心配だよ。今日は送っていく」 彼に手を差し出すと少しの間迷っていたが、最後に俺の表情を確認して、グイッと手を掴んで立ち上がった。 原付きは駐輪場に置いたまま、学校の裏門に向かう。 待ち伏せなどはされてなかった。 「滝沢くん、家は近いの?」 ──コクン。と頷く隣の彼。 そのしぐさが、あまりに天使だった 「かわいい。家まで送るね」 滝沢くんの眉間に嫌悪のシワが…… 「キモい。……やっぱひとりで帰る」 「ごめん。目から入った感想がそのまま口から出ただけで、変な気はないよ。安心して」 氷点下の睨みを全身に受けながらも、なんとか送り届ける許可をもらった。
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えなが つぐみ
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