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幕間 【佐々木智成、全てを察する男】

俺の名前は佐々木智成(ともなり)。 自動車科の博識王──と、俺は自負している。 さて、今朝のことだ。 俺は気づいてしまった。柊斗の異変に。 他の奴ら……尚弥はもちろん、蓮ですら気づいてないだろう。 だが、この俺は違う。繊細な観察眼を持つ俺だけが見抜いたんだ。 ──柊斗、お前……隠してるな? たとえば今朝の教室での会話。 「智成、今年も文化祭実行委員だっけ?」 尚弥がのんきに聞いてくる。 「あぁ。戦略的選択だ」 「……どういう意味?」 蓮が首をかしげる。 「蓮、こいつのことはほっとけ。とりあえず俺らだけで何やりたいか、ちょっと考えようぜ」 「尚弥は話が早くて助かる」 そんなやり取りの最中、突如として柊斗が口を挟んできた。 「女装喫茶はやめよう」 ……妙に食い気味である。 そしてその声には、切実さが混じっていた。 「……あたりめーだろうが」 尚弥が眉をしかめる。 「柊斗〜、お前そんなキモいこと考えてたんかよ……オェ〜」 隼颯の茶化しにも、柊斗は言い返さない。 ただ、妙に真顔で俯いていた。 いつもは友達だろうと、こんなにはっきりと意見を出すようなやつじゃない。 少しみんなの様子を見てから意見してる柊斗なのに。 そのとき、俺は確信した。 ああ、そうか。そういうことか。 柊斗、おまえ──女装趣味を隠してるな? きっと人知れず悩んでいたのだろう。 自分の嗜好を誰にも打ち明けられず、ただ心の奥にしまいこんでいたに違いない。 「と、とにかく!変な店じゃなくて、変な車でも作ろうよ!」 焦ったように提案する柊斗。 ……その姿を見て、俺は思った。 柊斗。お前、強く生きろよ。 誰にでも言えないことの一つや二つ、ある。 だが俺は、そんな柊斗を陰ながら支えるからな。 「変な車……?」 「変な車か〜……」 みんなが口々に想像を膨らませたそのとき、俺は静かに頷いた。 柊斗が隠している“真の自分”を、受け入れられる世の中でありますように。 「「「いいね!!!(変な車)」」」 うん、俺もそう思うぞ。 そんなこんなで、クラスの出し物の案は“変な車”の方向性になった。 その日の昼、俺らの教室に現れたのは、情報科のアイドル・滝沢玲央。 無敵のビジュアルで手を振る彼を見て、柊斗は心から喜んでいるように見えた。 (ああ……きっと、彼は“理解者”なのだろう) (柊斗、お前、よかったな……) 俺は密かに柊斗の背中にエールを送った。 頑張れ。 いつか柊斗がスカートを履いて、笑顔になれる日が来ますように。 君の博識王より、愛をこめて。

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