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第5話 地獄の係決め

あの日、玲央と屋上で話してから数日が経った。 新しい友達ができた、というだけでも十分に特別なことなのに──それが滝沢玲央だったから、なんだかずっとふわふわしていた。 話しかけられるだけで周囲がどよめくような存在。 そんなやつの、悩みを解決して、笑って、名前を呼ばれた。 俺みたいなやつが── まるで夢みたいで、何かの間違いだったんじゃないかと思うくらい。 ……けど、あれからは会えていない。 廊下ですれ違うこともなかった。 同じ校内にいるのに、なぜか遠く感じる。 まぁ、あいつにはあいつの生活があるし、別に気にしてない。 ただ、うまくやってるといいなって思うだけだ。   そんなふうに自分の中のモヤモヤを誤魔化していた俺とは違い、クラスの連中はというと── のんきなことに、文化祭の出し物どころか、係決めすら終わっていなかった。 本当に自動車科らしい。   ようやく重い腰を上げた俺たちは、文化祭準備の最初の一歩として、“全校縦割りの係”を決めることになった。 「はーい、係決めしまーす」 智成の気だるげで、妙に通る声が教室に響く。 彼は文化祭実行委員。しかも2年連続。 「6月で仕事が終わるから」と笑っていたけど、俺にはとても真似できない戦略的選択だった。 「今日はクラスの係じゃなくて、全校縦割りの係だからねー。 そして〜……なんと〜……明日が締切でーす!」 「もっと早く決めとけ!」 「智成やる気出せよ!」 ヤジが飛ぶたびに、智成は「ふふん」と得意げな顔で受け流していた。 あの強メンタルは見習いたい。 智成の独特な進行で、次々に係が決まっていく。 「受付係は……去年は田村だったっけ?」 そう言いながら黒板に ゙受付:田村゙と書いていく 「今年もかよ!受付嫌だよーー」 田村が机に顔を突っ伏して悲痛な声を上げる そんな智成の独断でほとんどの係が決まっていった。 残りの係りは…… 「誰かパンフ係やりたい人ー?」 智成が片手を上げながら聞いてきた。 常にうるさい自動車科の連中が、一瞬にして顔を伏せ口をつぐんだ…… 「…………推薦も可。」 すると尚弥が手を上げる。 「はーい!柊斗くんがいいと思いまーす。」 「はあぁ????」 俺は勢い良く席から立った。 「いや、俺は清掃係って決まっただろ!」 俺は今年一番の大きな声で反論し、黒板を指差した。 そこには間違いなく ゙清掃:芦沢゙と、書いてある。 「確かに。柊斗は清掃係って書いたわ」 智成が黒板を見ながら答えた。 するとずっと黙っていた蓮が久しぶりに声を出した。 「柊斗、字きれいだよな……、車の絵もうまいし」 「今いらんことを言うなよ!」 俺が蓮に向かって涙のツッコミを入れるが…… 「確かに!」 「柊斗、まとめるの上手かった気がする!」 「ペンの持ち方も綺麗だしな!」 「よっ!パンフレットの申し子!!」 クラスの連中は、自分がパンフレット係になりたくないから必死に俺を盛り立てた。 「じゃ、決定ということで……」 ──サラサラ… ゙パンフレット:芦沢(2)゙ ──????? 「ちょっ……待て待て待て待て!!」 俺の悲鳴混じりの声がだんだんと大きくなる。 「2って何? 2つ……俺、2つですか??」 「2つだ。……もう時間もないしな」 ──それは、お前が仕事してなかったからだろうが! 「清掃係は前日当日が忙しいだけだし、パンフ係は文化祭の1〜2週間前には仕事終わってるしな。」 智成はグッ!と、親指を立てた。 お前なら大丈夫だろ?って顔してるけど…… どう考えても大丈夫じゃない、それだと俺の負担が2倍だぞ?! 「いや、待って!それ俺だけ負担が……」 「はい終了〜。では次、出し物の話〜」 俺の猛抗議もむなしく、智成は鳩でも追い払うような手つきで俺の発言を消し去った。 やばい。この年でブラック企業の洗礼を受けたような感覚── 文化祭、過労死しちゃう……

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