7 / 26
第5話 地獄の係決め
あの日、玲央と屋上で話してから数日が経った。
新しい友達ができた、というだけでも十分に特別なことなのに──それが滝沢玲央だったから、なんだかずっとふわふわしていた。
話しかけられるだけで周囲がどよめくような存在。
そんなやつの、悩みを解決して、笑って、名前を呼ばれた。
俺みたいなやつが──
まるで夢みたいで、何かの間違いだったんじゃないかと思うくらい。
……けど、あれからは会えていない。
廊下ですれ違うこともなかった。
同じ校内にいるのに、なぜか遠く感じる。
まぁ、あいつにはあいつの生活があるし、別に気にしてない。
ただ、うまくやってるといいなって思うだけだ。
そんなふうに自分の中のモヤモヤを誤魔化していた俺とは違い、クラスの連中はというと──
のんきなことに、文化祭の出し物どころか、係決めすら終わっていなかった。
本当に自動車科らしい。
ようやく重い腰を上げた俺たちは、文化祭準備の最初の一歩として、“全校縦割りの係”を決めることになった。
「はーい、係決めしまーす」
智成の気だるげで、妙に通る声が教室に響く。
彼は文化祭実行委員。しかも2年連続。
「6月で仕事が終わるから」と笑っていたけど、俺にはとても真似できない戦略的選択だった。
「今日はクラスの係じゃなくて、全校縦割りの係だからねー。 そして〜……なんと〜……明日が締切でーす!」
「もっと早く決めとけ!」
「智成やる気出せよ!」
ヤジが飛ぶたびに、智成は「ふふん」と得意げな顔で受け流していた。
あの強メンタルは見習いたい。
智成の独特な進行で、次々に係が決まっていく。
「受付係は……去年は田村だったっけ?」
そう言いながら黒板に
゙受付:田村゙と書いていく
「今年もかよ!受付嫌だよーー」
田村が机に顔を突っ伏して悲痛な声を上げる
そんな智成の独断でほとんどの係が決まっていった。
残りの係りは……
「誰かパンフ係やりたい人ー?」
智成が片手を上げながら聞いてきた。
常にうるさい自動車科の連中が、一瞬にして顔を伏せ口をつぐんだ……
「…………推薦も可。」
すると尚弥が手を上げる。
「はーい!柊斗くんがいいと思いまーす。」
「はあぁ????」
俺は勢い良く席から立った。
「いや、俺は清掃係って決まっただろ!」
俺は今年一番の大きな声で反論し、黒板を指差した。
そこには間違いなく
゙清掃:芦沢゙と、書いてある。
「確かに。柊斗は清掃係って書いたわ」
智成が黒板を見ながら答えた。
するとずっと黙っていた蓮が久しぶりに声を出した。
「柊斗、字きれいだよな……、車の絵もうまいし」
「今いらんことを言うなよ!」
俺が蓮に向かって涙のツッコミを入れるが……
「確かに!」
「柊斗、まとめるの上手かった気がする!」
「ペンの持ち方も綺麗だしな!」
「よっ!パンフレットの申し子!!」
クラスの連中は、自分がパンフレット係になりたくないから必死に俺を盛り立てた。
「じゃ、決定ということで……」
──サラサラ…
゙パンフレット:芦沢(2)゙
──?????
「ちょっ……待て待て待て待て!!」
俺の悲鳴混じりの声がだんだんと大きくなる。
「2って何? 2つ……俺、2つですか??」
「2つだ。……もう時間もないしな」
──それは、お前が仕事してなかったからだろうが!
「清掃係は前日当日が忙しいだけだし、パンフ係は文化祭の1〜2週間前には仕事終わってるしな。」
智成はグッ!と、親指を立てた。
お前なら大丈夫だろ?って顔してるけど……
どう考えても大丈夫じゃない、それだと俺の負担が2倍だぞ?!
「いや、待って!それ俺だけ負担が……」
「はい終了〜。では次、出し物の話〜」
俺の猛抗議もむなしく、智成は鳩でも追い払うような手つきで俺の発言を消し去った。
やばい。この年でブラック企業の洗礼を受けたような感覚──
文化祭、過労死しちゃう……
ともだちにシェアしよう!

