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幕間【佐々木智成、全てを察する男2】
俺の名前は佐々木智成。自動車科の博識王──と、自負している。
今日は文化祭2日目。
文化祭実行委員として、後夜祭の準備で多忙を極めていた。
しかし、時間の合間を縫ってクラスにも顔を出し手伝いをしているときだった。
俺は、つい感じ取ってしまったんだ──柊斗が悲しみを抱えていることを……。
柊斗が「変な綿あめ」を来客に配っているとき、どう見ても硬い表情だった。
「この綿あめ、みんな迷惑そうだ」と、苦笑いしていた。
そのとき俺は、ハッとした。
なんてことだ。 この俺が、気づかずに無理をさせていたなんて……。
柊斗に申し訳ないことをした。
思えば、クラスの役割が決まった、数日前から元気がなかったように思える。
そうか……柊斗、お前──そのドス黒い綿あめが、可愛くないんだよな?
柊斗は「女装喫茶はやめよう」と、みんなに強めに否定するほど、女装趣味を隠している。
でもやっぱり、可愛いものが好きなのは隠せてない。
こんなドス黒い綿あめ、全っ然かわいくないもんな。
「柊斗、無理して作らなくてもいいぞ」
── お前の気持ち、ちゃんと考えてなかった、ごめん。
「いや、無理なんてしてないよ。俺、結構楽しんでる」
「柊斗……お前……」
気丈に振る舞う柊斗に心が切なくなった。
そんなとき、尚弥が俺たちの側にやってきた。
「よ!働いてるか?」
まったく、こいつはお気楽なもんだ……。
「ボーカルの風邪が治ったから、後夜祭でバンドできることになったぞ!」
尚弥が嬉しそうに報告してきた。
前夜祭でもバンド演奏したが、ボーカルの体調が悪く、隼颯が代役で出て微妙な感じになってしまったからだ。
「よかったじゃん!頑張れよ!」
柊斗が尚弥に声をかける。
「お前たちが盛り上げてくれて、実行委員としてもありがたいよ」
俺なりに尚弥を応援した。
そこで俺は、ふと思いつき、柊斗に声をかける。
「柊斗、お前もやりたいことをやれ」
「え?なに突然?」
柊斗が困惑していた。
無理もない。
俺がお前の趣味に気づいていることを、お前は知らないのだから。
俺は続けた。
「いいか。人はいつ何時死んでしまうか、そんなのわからないんだ。」
「え……話重っ」
尚弥が口を挟む。
「尚弥だって、いつ死んでもいいように、やりたいように音楽やってんだ。」
「いや、俺の死亡フラグやめろ」
柊斗はまだ俺の言わんとしてることがわかっていないようだった。
「それから、人の目を気にしすぎるな。尚弥だって、変な目で見られようとも信念を持ってあんな格好してるんだ。」
「……俺、そんな変な格好してんの?まじかよ」
どうも、俺の言葉は柊斗よりも尚弥に刺さっているみたいだ。
「智成、つまり俺になにを言いたいの?」
柊斗は困ったように俺に言ってきた。
これにはまいった。
俺は人の秘密をバラすような、そんなデリカシーのないことはしない主義だ。
ここには尚弥もいるし、できれば明言は避けたい。
どうしようか……。
「確かに俺、今ちょっと元気なかったかも」
柊斗から思いもよらない言葉が返ってきた。
困ったような笑顔が、柊斗の辛さを物語っている。
「やっぱり、そうだったのか」
俺はゆっくりと柊斗を見つめながら頷いた。
俺の勘は、当たっていたんだ。
「俺を笑わせて、元気づけようとしてくれたのか?」
そういうわけでもないんだが、柊斗が嬉しそうな顔をしているから、俺も目を合わせて微笑んだ。
そして最後に、今度こそ柊斗を元気づけようと言葉をかけた。
「柊斗がどんな格好をしてたって、俺はお前の友達だ!」
「え?…………は?」
「おい、さっきからなんの話してんだ?」
柊斗と尚弥は、わけがわからないような声を出していたが、俺は気持ちを伝えられてスッキリした。
俺はそのまま二人を置いて、教室を出た。
そして気持ちよく、委員会の仕事へと戻って行った。
これで文化祭の仕事も捗りそうだ。
俺は、また友達の未来を、明るくしてしまったようだ。
いつか、柊斗が偽りのない姿を俺たちに見せてくれたら幸せだ。
君の博識王より、愛を込めて──
「柊斗、変な趣味でもあんの?」
「いや……思い当たんないけど」
「だよな。あいつ、なんだったんだ?」
「さぁ?でも、わからなくて正解な気がする」
「……だな」
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