21 / 26
第13話 すれ違いの雨音
衝動的に玲央を連れ去ってしまった文化祭。
あの日、やっと自分の気持ちを言葉にできた。
そして抱きしめ返してくれた玲央も、同じ気持ちでいてくれた。
それだけで胸がじんわりと温かく、優しい気持ちになれた。
俺の一番は玲央で、玲央も同じように思ってくれてる。
ようやく手に入れた、この大事な関係。
俺はその喜びを噛みしめながら、玲央と一緒に日常へ戻っていった。
そして、文化祭から2週間が過ぎようとしていた。
昼休み、LINEの通知音が鳴った。
「今日一緒に帰れる?」
玲央からだった。
俺はすかさず、“もちろん”という文字にちょこんと座るペンギンのスタンプを送り返した。
実は俺も玲央に伝えたいことがあったんだ。
それは放課後に話そう。
文化祭が終わってから、バイトがない日は玲央と一緒に帰っている。
こんな小さなことなのに、嬉しくてたまらない。
あぁ、早く放課後にならないかな……
玲央の隣を歩ける──それだけで俺には特別な時間になるんだ。
放課後になると、朝から降り続いていた雨足が激しくなっていた。
これ以上強く降ったら、傘をさしていても濡れてしまいそうだ。
俺は昇降口で玲央を待ちながら、空模様を気にしていた。
「よっ!」
ポンッと軽く肩を叩かれた。
振り向くと、やっぱり玲央だった。
「遅かったじゃん」
「お前たちがいつも早すぎんだよ」
そんな他愛もない話を交わしながら、傘を広げて雨の中を歩き始めた。
頭上に打ち付ける雨粒の音はうるさいけど、このくらいなら歩いて帰れそうだな、と思った。
「柊斗、今日は歩きだろ?」
いつもは原付きで登下校してるけど、さすがに今日は電車で来ていた。
「うん。だから、今日は途中で駅に向かうよ」
「ふーん…………。雨弱まるまで、俺んち来てもいいけど?」
玲央の声がほんの少しだけ緊張しているように聞こえた。
また、いつもみたいに俺に気を使ってくれてるのかな。
「このくらいの雨なら大丈夫だよ。ありがとな!」
俺は玲央の言葉に感謝を込めたつもりだった。
でも、玲央の顔は暗くなっていった。
「……そっか。」
雨が強く声が通りにくいせいで、俺たちはしばらく無言で歩いた。
でも俺は、玲央となら無言も嫌じゃない。
一緒にいると安心する。
お互いに認めあった仲だからなのかな……
歩きながら俺は玲央に伝えたいことを思い出した。
「そうだ、玲央。今度の休みは空いてる?」
俺の言葉に玲央は勢い良く振り向いた。
「え?!あ、空いてる。土曜も日曜も空いてる!」
「あはは!暇人だなー」
俺は茶化したけど、玲央の顔は何故か真剣だった。
「実は、懸賞が当たってさー」
俺はもったいぶって玲央に伝えた。
「それがなんと!玲央が見たがってた映画の舞台挨拶なんだ。どう?行く?」
ニヤッと笑ってみせると、玲央の目が大きく見開かれていた。
「まじかよ!すげー!行くに決まってる!」
俺の隣でジャンプしながら喜ぶ玲央。
その姿がかわいくて、俺の胸がほっこりと暖かくなる。
──玲央を誘えて良かったな。
ひと通り喜んだあと、玲央がハッとしたように俺を振り返った。
「柊斗、でもいいのか?俺じゃなくても、家族と行ってもいいんだぞ?」
……玲央は俺に優しすぎる
「何言ってんだよ。玲央と一緒に行きたいんだよ。」
俺は玲央に当たり前のように微笑んだ。
「俺と玲央は親友だろ?」
俺の真っ直ぐな言葉に、玲央は固まってしまった。
そんなに驚くことだったかな。
ここまでストレートに言葉にしたのは初めてだったから、びっくりしたのかな。
俺は、固まってしまった玲央も素直でいいやつだな、なんて思いながら再び歩き始めた。
止まっていた玲央も、俺の半歩後ろを付いてきている。
その時、雨の勢いが増して、足がびしょ濡れになっていた。
「玲央!この先駅だから、今日はここで!」
俺は、じゃあまた、と玲央に挨拶をして、駅に駆け出した。
もはやスニーカーはバケツのように水を溜め込んでいて、歩くたびにぐちゅぐちゅと音を立てる。
そんな最悪な状況だったけど、俺の心だけは青空みたいに晴れていた。
今日は雨に降られたけど、玲央と一緒に帰れたし、映画も誘えていい日になった気がするな。
──そんな、お気楽なことを考えていたんだ。
その日の夜、いつものように玲央からLINEが届いた。
「ごめん、土日用事あったわ」
簡潔な内容。
用事があったなら仕方ない。
俺こそ突然の誘いだったんだ。
「了解!また今度遊ぼう」
俺の返信に、玲央が反応することはなかった。
いつもと違う様子に、俺は少し心配になった。
それでも、明日聞けばいいか、なんて悠長なことを考えていた。
まさかこのやりとりが最後になるなんて思わなかったんだ……
ともだちにシェアしよう!

