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第13話 すれ違いの雨音

衝動的に玲央を連れ去ってしまった文化祭。 あの日、やっと自分の気持ちを言葉にできた。 そして抱きしめ返してくれた玲央も、同じ気持ちでいてくれた。 それだけで胸がじんわりと温かく、優しい気持ちになれた。 俺の一番は玲央で、玲央も同じように思ってくれてる。 ようやく手に入れた、この大事な関係。 俺はその喜びを噛みしめながら、玲央と一緒に日常へ戻っていった。 そして、文化祭から2週間が過ぎようとしていた。 昼休み、LINEの通知音が鳴った。 「今日一緒に帰れる?」 玲央からだった。 俺はすかさず、“もちろん”という文字にちょこんと座るペンギンのスタンプを送り返した。 実は俺も玲央に伝えたいことがあったんだ。 それは放課後に話そう。 文化祭が終わってから、バイトがない日は玲央と一緒に帰っている。 こんな小さなことなのに、嬉しくてたまらない。 あぁ、早く放課後にならないかな…… 玲央の隣を歩ける──それだけで俺には特別な時間になるんだ。 放課後になると、朝から降り続いていた雨足が激しくなっていた。 これ以上強く降ったら、傘をさしていても濡れてしまいそうだ。 俺は昇降口で玲央を待ちながら、空模様を気にしていた。 「よっ!」 ポンッと軽く肩を叩かれた。 振り向くと、やっぱり玲央だった。 「遅かったじゃん」 「お前たちがいつも早すぎんだよ」 そんな他愛もない話を交わしながら、傘を広げて雨の中を歩き始めた。 頭上に打ち付ける雨粒の音はうるさいけど、このくらいなら歩いて帰れそうだな、と思った。 「柊斗、今日は歩きだろ?」 いつもは原付きで登下校してるけど、さすがに今日は電車で来ていた。 「うん。だから、今日は途中で駅に向かうよ」 「ふーん…………。雨弱まるまで、俺んち来てもいいけど?」 玲央の声がほんの少しだけ緊張しているように聞こえた。 また、いつもみたいに俺に気を使ってくれてるのかな。 「このくらいの雨なら大丈夫だよ。ありがとな!」 俺は玲央の言葉に感謝を込めたつもりだった。 でも、玲央の顔は暗くなっていった。 「……そっか。」 雨が強く声が通りにくいせいで、俺たちはしばらく無言で歩いた。 でも俺は、玲央となら無言も嫌じゃない。 一緒にいると安心する。 お互いに認めあった仲だからなのかな…… 歩きながら俺は玲央に伝えたいことを思い出した。 「そうだ、玲央。今度の休みは空いてる?」 俺の言葉に玲央は勢い良く振り向いた。 「え?!あ、空いてる。土曜も日曜も空いてる!」 「あはは!暇人だなー」 俺は茶化したけど、玲央の顔は何故か真剣だった。 「実は、懸賞が当たってさー」 俺はもったいぶって玲央に伝えた。 「それがなんと!玲央が見たがってた映画の舞台挨拶なんだ。どう?行く?」 ニヤッと笑ってみせると、玲央の目が大きく見開かれていた。 「まじかよ!すげー!行くに決まってる!」 俺の隣でジャンプしながら喜ぶ玲央。 その姿がかわいくて、俺の胸がほっこりと暖かくなる。 ──玲央を誘えて良かったな。 ひと通り喜んだあと、玲央がハッとしたように俺を振り返った。 「柊斗、でもいいのか?俺じゃなくても、家族と行ってもいいんだぞ?」 ……玲央は俺に優しすぎる 「何言ってんだよ。玲央と一緒に行きたいんだよ。」 俺は玲央に当たり前のように微笑んだ。 「俺と玲央は親友だろ?」 俺の真っ直ぐな言葉に、玲央は固まってしまった。 そんなに驚くことだったかな。 ここまでストレートに言葉にしたのは初めてだったから、びっくりしたのかな。 俺は、固まってしまった玲央も素直でいいやつだな、なんて思いながら再び歩き始めた。 止まっていた玲央も、俺の半歩後ろを付いてきている。 その時、雨の勢いが増して、足がびしょ濡れになっていた。 「玲央!この先駅だから、今日はここで!」 俺は、じゃあまた、と玲央に挨拶をして、駅に駆け出した。 もはやスニーカーはバケツのように水を溜め込んでいて、歩くたびにぐちゅぐちゅと音を立てる。 そんな最悪な状況だったけど、俺の心だけは青空みたいに晴れていた。 今日は雨に降られたけど、玲央と一緒に帰れたし、映画も誘えていい日になった気がするな。 ──そんな、お気楽なことを考えていたんだ。 その日の夜、いつものように玲央からLINEが届いた。 「ごめん、土日用事あったわ」 簡潔な内容。 用事があったなら仕方ない。 俺こそ突然の誘いだったんだ。 「了解!また今度遊ぼう」 俺の返信に、玲央が反応することはなかった。 いつもと違う様子に、俺は少し心配になった。 それでも、明日聞けばいいか、なんて悠長なことを考えていた。 まさかこのやりとりが最後になるなんて思わなかったんだ……

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