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セックス(仮)という任務を一つ果たした俺は小さな達成感を抱きながらも、それと同時に少々スッキリしない気持ちを抱えていた。リンゴの彼がノーパンのまま仕事に戻った事への心配もスッキリしない気持ちの要因の一部であったが、その比ではない大きな問題が存在していたのだ。
リンゴの彼との性行為は楽しかった。彼との行為に俺は性的な興奮を覚えていた。えっちだなあと思ったし、可愛いなあと好感も抱いた。俺のペニスも、彼とのセックスにやる気満々で挑んでいた。
――だがしかし、俺のペニスは最後まで勃起しなかったのだ。
下着の中で俺のペニスはワクワクとしながら自分の出番を待っていたが、目の前で繰り広げられる淫靡な展開に心が興奮しているにもかかわらず、待てど暮らせどその肉棒は全く臨戦態勢に至らなかったのだ。
性行為が中途半端に終わってしまったから、という言い訳もできるだろう。あと少し彼の体を継続してまさぐり続けていれば、あるいは彼の体を愛撫しながら自身のペニスも扱いていれば、きちんと勃起したかもしれない。
それでも俺は、この現実に不安を感じずにはいられなかった。あんなにえっちだったのに、俺は勃起しなかったのだ。できなかったのだ。初めての挑戦だったため緊張していただけかもしれない。たまたま調子が悪かっただけなのかもしれない。しかしいくら言い訳を並べてペニスを弁護してみても、『全然勃たなかった』という確固たる事実は覆ってくれるものではない。
ペニス自身も、下着の中で動揺しているようだった。間違いなくやる気満々だったのだ。リンゴの彼に好意を抱き、彼で童貞を卒業する気でずっと出番を待っていたのだ。困惑するペニスを下着の中に収めながら村を歩く俺の思考は一つ歩みを進める度に不安の色を濃くしていく。
挿入を果たさずとも村人の魔力を増強できるというのは幸いだった。リンゴの彼の勘違いのように、もしも挿入した上で中出しをする事が魔力増強の条件となっていたならば、実に危ういところだった。いざ挿入しようとした際にリンゴの彼の期待の前にまろび出されるのが待てど暮らせど芯を持たない軟弱ペニスだったとしたら、いったいどれだけの絶望を与えた事だろう。そう思うと、不安で不安でたまらない。
「アルファ様あぶない!」
不穏な思考に支配されながら歩いていた俺は足元の注意が散漫になり、うっかり小石に躓いた。あっと思うと同時に近くで焦燥した声が上がり、気付けば俺の顔面は柔らかな感触に包まれていた。
「大丈夫ですかい、アルファ様? ちっと顔色が優れねえみたいですが……怪我はありませんかい?」
頭上から聞こえる声に顔を上げると、心配そうにこちらを見下ろす壮年の男性と目が合った。転倒しそうになった俺を、咄嗟に抱きとめてくれたらしい。
顔面を包み込んでくれた柔らかさは彼の大胸筋による物で、ムキムキと豊かな筋肉を身に纏った彼の腕の中で俺は一瞬動揺しつつも、しかしすぐに自分は総攻め主人公であるのだという意識をしっかりと持ち直し、俺を慕う妻の一人であろう彼に対して「大丈夫だよ、ありがとう」とカッコ良く柔和に微笑みかけた。
俺の笑みを受けた彼は、瞬時にポッと頬を染めて目を泳がせる。今の今までは転倒しそうになった俺を心配する気持ちが勝っていたが、俺の無事を確認して安堵するやいなや一瞬にして強い恋情が込み上げて来たらしい。
「そ、それなら良かったんです。昨日も具合が悪いと聞いていたんで、もしかしたらまだ本調子じゃねえのかと思って……」
真っ赤になってもじもじとしながらムキムキの彼は自身の腕の中から俺を解放しようとしたが、俺は逆に彼の腰に腕を回してギュッとその屈強な肉体に抱き着いた。
わっ、と大きく逞しい肉体とは逆に小さく微弱な可愛い声がムキムキの彼の唇から漏れる。俺はそんな彼にすり寄り、カッコ良さに少々甘えた色香をまぶして囁きかけた。
「心配してくれているのかい? 優しいね。もし迷惑じゃなかったら、少しだけキミの家で休憩させてもらえるかな?」
「あっ、えっ、そ、そりゃもちろん!」
ムキムキの彼の肉体がじっとりと熱く汗ばむ。大好きな俺に迫られ、ひどく緊張しているらしい。分かりやすく口ごもりながら慌てる彼の仕草は非常に愛らしく、俺のペニスは先ほどの無念を取り返すように(この子を抱こう!)と気合を入れていた。
彼の家は全ての家具がトーゴの家の物と比較すると一回り以上大きかった。スープカップかと思うくらいに大きなティーカップにお茶を入れて出してくれたムキムキの彼は、俺が自室にいるという状況に落ち着かない様子でそわそわとしている。そんな彼の姿はよくしつけられたお利口な大型犬のようで、落ち着かない様子でありながらもその背後にはブンブンと元気に振り回されている犬の尻尾の幻影すらもはっきりと見えるようだった。
「緊張しているのかい?」
「えっ、あっ、あっ」
ムキムキの彼に歩み寄り、汗ばむ肩にそっと手を置く。そのまま上腕筋にするりと手のひらを滑らせ屈強な肉体が為す美しい隆起を指でなぞると、彼は喉仏を震わせてクゥンと子犬のように鳴いた。
「すごく逞しい体だね。触らせてもらっても良いかな?」
彼がブンブンと勢いよく頷く。従順な仕草に気分を良くした俺は、彼の二の腕に這わせていた腕を豊満な胸筋へと移動させ、弛緩した筋肉のその弾力を無遠慮にゆるゆると揉んだ。
実に立派なおっぱいである。俺の手のひらは『とっても大きなおっぱいを揉む』という前世から通して初めての行為に強く感激し、夢中になって彼の胸筋を揉みしだいた。ムキムキの彼は武骨な両手で口を押さえ、フゥンフゥンと甘い息を鼻から漏らして悶えていた。
「顔が真っ赤だよ。恥ずかしい?」
再び彼が激しく頷く。とても素直な性格らしい。ムキムキの彼にギュッと抱き着き「ベッドに行こっか」と声を掛けると、彼は恥ずかしそうに目を伏せながらもウンと改めて大きく頷き、俺の体を軽々抱き上げ自身のベッドへと連れて行ってくれた。
随分と硬いベッドの上に座らせられた俺は、自身の隣をポンポンと叩いてそこに座るようにと彼を誘った。すると彼は従順に俺の隣へと座り、期待と不安の混ざった目でチラチラと視線を向けて来る。
「あ、あの……アルファ様、俺……こういう知識、全然、ねえから……優しく、教えて、ください……」
ムキムキの彼が、おずおずと俺に行為をねだる。この世の全てをフィジカルでねじ伏せる事すら出来そうなほどに屈強な男でありながら、遠慮がちに小さく甘えるそのいじらしい姿はまるで小動物のようだった。俺は彼に微笑みかけつつ、そっとその非常に巨大な小動物の腰へと腕を回した。
発達した腹斜筋を指先でくるくるとなぞってくすぐると、バキバキに割れた彼の腹筋にグッと力が籠められる。その凹凸に手を這わせた俺は、ゆっくりと彼のへその窪みを辿りながら下へ下へと指を滑らせ、着衣の上からやんわりと優しく股間を掴んだ。するとそこは着衣越しでも分かるほどに既にしっとりと湿っており、驚いてムキムキの彼の顔を覗き込むと、羞恥の色に染まった彼は弱々しく顔を俯かせた。
「どうしたのかな? ここが濡れてるよ?」
「んんんッ、あっ、アッ、ンンッ……!」
太く膨れた幹の根元を指先でつまみ、パンパンに腫れたその先端に向けて着衣の上からカリカリと引っかく。するとムキムキの彼は俯かせた顔を勢いよく持ち上げ、汗ばむ首筋を晒しながらビクンと震えて更に股間を湿らせた。
彼の下着の中は、きっと既にどうしようもなく淫らに濡れているのだろう。鍛え上げられた肉体にぶら下がっている立派な男根。そのずっしりとした質量を持つ竿も玉も、自身の漏らした愛液によってぐしょぐしょに濡れて蕩けているのだろう。彼の下着の中に生まれた淫らな湿原を想像すると、俺の胸は激しく高鳴り、全身の血液が熱く滾った。
ムキムキの彼の潤んだ眼が俺を捉える。ふうふうと熱い吐息を漏らした彼の手が、縋るように俺の腕をそっと掴んでペニスへの刺激を制止する。
「で、出ちまいました……」
「うん? 何が出ちゃったんだい?」
うう、と彼が弱々しく唸る。どうやら随分と恥ずかしがり屋さんらしい。大きな体を小さく縮めてもじもじと恥じらう彼のギャップを大層可愛らしく思った俺は、もっともっと彼をいじめて恥ずかしがらせたいというそんな感情を抱きつつあった。
ムキムキの彼が俯く。真っ赤に染まった耳が見える。俺はその鮮やかな耳殻に唇を寄せ、「何が出たのか、言ってごらん?」と甘く甘く囁いた。
「せいえき、です……っ」
涙声で必死に返答するムキムキの彼は、半ベソ状態だった。泣くほどの羞恥を感じながらも必死に俺の言葉に従う彼の素直さが好ましく、震える大きな体躯を抱きしめた俺はそのまま彼を押し倒した。
普通であれば、この強い肉体が俺のようなヒョロヒョロ吸血鬼もどきに組み敷かれる事など全くあり得ない話だろう。俺が彼を押し倒せたという事はつまり、彼を押し倒そうとする俺の動作に協力的な彼が自ら積極的に倒れてくれたという事に他ならない。
恥ずかしすぎてベソをかきつつ、それでも更なる期待を抱いて自らベッドにひっくり返ってくれた彼の事が堪らなく可愛らしく感じられ、俺は性急な動作で彼のベルトを引っこ抜き、その勢いのままズボンも下着も全てを勢いよく取っ払った。
下半身を裸に剥かれたムキムキの彼は、一層激しい羞恥を感じてうるうると目を潤ませながら身悶えた。
湿った陰毛の中心から屹立する彼の男根はその大きな体型に比例し、天井を貫かんばかりの意気込みをも感じさせる見事な大筒を成していた。恥ずかしそうにそれを隠そうとする彼の手を掴んだ俺が「隠しちゃダメだよ」と一言いえば、彼は更に顔を真っ赤に染めながらも素直に従いおとなしく両手を脱力させる。その手を彼の両脇にそっと添えた俺は、ムキムキの彼が剥き出しにしたビンビンの男根にじっとりと熱い視線を向けた。
勃起したペニスをじっくり観察されるという状況に彼はヒンヒンと情けない悲鳴を上げて震えつつも、屹立した幹の先端からはとぷとぷと無尽蔵に透明な露が溢れ出ており、ただ見られているだけだというのにギンギンに浮き上がった血管を脈打たせていた。
「あるふぁさま、はずかしいです……」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら甘えた声を漏らす彼は、これ以上いじめると本格的に泣き出してしまいそうな弱々しい表情を見せていた。
この屈強な男はきっと今まで、誰にもこんな顔を見せた事はないのだろう。筋肉という鎧を纏って強く逞しく生きて来た彼に、こんな顔をさせた人は今まで誰もいなかっただろう。
「大丈夫、すごく可愛いよ」
「アルファ様……っ、俺、ドキドキして、はずかしすぎて……はじめてだから、どうしたら良いか、わかんねえ……っ」
ポロリと涙を零しながら悶える彼を慰めるように抱きしめながら、よしよしと優しく耳元で囁く。
初めてだからどうしたら良いか分からないのは、お互い様である。俺だってよく分からないまま知ったかぶって、見切り発車で探り探りやっているのだ。
けれどきっと俺が何をどうしようとも、このムキムキの彼は全てを俺に委ねながら快感に乱れてくれるのだろう。リンゴの彼と同様に、何をしても喜んでくれるムキムキの彼の敏感な心身があるからこそ、初心者マークを隠し持ったこの性行為は成り立っているのだ。
俺はムキムキの彼を宥めながら、さりげなくシャツを脱がせた。彼は一切の抵抗を見せず、されるがまま俺の目の前に見事な裸体を曝け出した。
「触っても良いかな?」
泣きべその彼にそう訊ねるが、答えなど端から分かり切っていた。泣くほど恥ずかしくて堪らないのにムキムキの彼は全く嫌がる素振りを見せず、ウンと素直に頷いて見せる。俺は大型犬を愛でるようにワシャワシャと彼の頭を撫でてから、汗ばむ彼の豊かな体躯に手を伸ばした。
鍛えられた筋肉の一つ一つをマッサージするように、ゆるゆると両手で肉体の隆起を丁寧に撫でる。はふはふと熱い吐息を漏らしていた彼の唇から「ぁんんッ」と甘い声が漏れたのは、豊満な大胸筋に色を落とした乳首に指先が触れた瞬間だった。
「あっ、アルファ様、ちがうんです、今の声は、その、ちがうんですっ」
己の嬌声に驚いたのか、漏れ出た声を彼が必死に否定する。
泣きべそ顔でチガウチガウと訴える彼はただただ可愛らしいばかりであり、俺は思わず笑みを漏らした。
「そっか、違うのか」
「そうです、ちがうんです、ちがう、あっ、んんッ!」
指の腹でスリスリと乳首の先端を擦る。ムキムキの彼は必死に「違う」と連呼するも、いったい何が違うのか自分でも訳が分からなくなっている様子だった。
乳輪の周りをなぞってみたり、先端をグッと潰してみたりと俺の指に乳首を弄ばれる度に、彼は朗々とした声量で元気にアンアンと喘いで激しく乱れた。そんな彼の顔は我慢汁と精液にまみれた自身の股間に負けず劣らず涙と唾液ですっかりびしょびしょになっていた。
「可愛いね、気持ち良いね」
彼の耳元にゆるゆると甘い言葉を流し込む。訳も分からず否定の言葉を繰り返す彼の脳の奥にしっとりとそう言い聞かせながらクニクニと指先で乳首を摘まめば、ほうっと表情を緩ませた彼はコクリと頷き小さな声で「きもちいい」と俺の言葉を復唱した。
汗に濡れた彼の大胸筋に唇を寄せる。尖った乳首をぺろりと舐めると、僅かに塩の味がした。
「ぁ、ぁ、きもち、ぃぃ……っ、ああんッ」
パンパンに張った胸に軽く歯を立てると、大きな体躯は打ち上げられた活魚のようにビクンと大きく豪快に跳ねる。俺はうっかり弾き飛ばされないようにその肉体にしがみ付きつつ、チュウッと強く乳首を吸った。
「あ、ぁ、アアアッ! アルファ様、あるふぁ、さまぁ……ッ!」
ムキムキの彼の肉体の中心、終始雄々しく天を仰いで脈動していた大筒ペニスがブルンと震えて噴水の如き勢いで激しく精液を放つ。クジラの潮吹きを思わせるその圧巻の光景に俺は堪らず彼のペニスを鷲掴み、豊満な雄の胸をしゃぶりながら無我夢中で大きな男根を豪快に扱いた。
家が揺れるほどの大きな嬌声が響き渡る。快楽に蕩けた淫靡な咆哮。性感を煮詰めた甘い雄叫び。淫猥な獣と化した彼に羞恥を感じる余裕などない。大好きなアルファ様から与えられる快感以外に何も分からなくなっている彼が、可愛くて可愛くて堪らない。
大魚の掴み取りにも等しいほどに暴れるペニスを扱きながら、ねっとりと舌で乳首を舐る。手が足りない。もっと彼に触りたい。もっと淫らに乱れさせたい。きっと今頃この男根の根元では、パンパンに膨れた見事な陰嚢がブルンブルンと元気に踊っているのだろう。更にその下に行けば、誰にも侵入を許していない無垢な蕾が我慢汁と精液に塗れてヒクヒクと震えているのだろう。
「あっ、んんッ! ぁ、アアッ、ああぁんッ!」
大きく喘ぎながらベッドの上を跳ねる肉体。ビクンビクンと筋肉の一つ一つが喜びに震え、しっとり汗ばんだ肌の奥で熱い血潮を滾らせている。
全てに触りたい。全てを攻めたい。この家が吹き飛んでしまうほどに彼の嬌声を響かせたい。込み上げる欲求の波に乗って筋肉の大海へと舟をこぎ出す。淫肉のビッグウェーブが激しく汗を撒き散らす。家が吹き飛ぶのが先か、俺が吹き飛ぶのが先か。いや、どっちだって構わない。彼をもっと鳴かせたい。果てしない大海原の如き快楽の中で溺れる彼をもっと見たい。もっと、もっと、もっと激しく――!
――そうして躍動する肉体にしがみ付いて精液の飛沫を一身に浴びせかけられていた俺は、ふと冷静になった瞬間、自分の組み敷いていたムキムキの男がスウスウと穏やかな寝息を立てている事に気が付いた。
リンゴの彼と同様に、過度の快楽に飲まれたムキムキの彼もまた、セックスの途中で気を失ってしまったのだった。
突如として激しい祭りが終わったかのような突然の静寂の真ん中に取り残された俺は、とりあえず周囲に激しく飛び散る体液をどうにかせねばならないと思い、穏やかな寝息を立てるムキムキの彼を起こさないよう静かに後片付けを始めた。
濡らしたタオルでムキムキの彼の体を清め、脱がした着衣を整える。掛け布団を掛けてやり、びしょ濡れの床や壁を掃除する。そうしてせっせと後処理をしている最中で目を覚ましたムキムキの彼は、俺が彼の下着を洗濯しようとしているのを見るとワアッと大きな悲鳴を上げてベッドから飛び起き慌てて駆け寄って来た。
「ごめんなさいアルファ様! 俺、途中で気をやってしまって……何か粗相はありませんでしたかい? 俺、アルファ様に、その、分かんねえけど、恥ずかしい所をたくさん見せてしまったような気がして……!」
屈強な腕が俺の手中から下着を奪って己のポケットへとねじ込む。大きな体を小さく縮めたムキムキの彼は、リンゴの彼の時と同様にして性行為中の記憶が曖昧であるようだった。
委縮する彼の逞しい肉体を優しく撫でつつ、「大丈夫だよ」とカッコ良く微笑む。理性を取り戻した彼に教えたら恥ずかしすぎて泣き出してしまいかねないほどに可愛らしい姿は存分に観察させてもらった。とても楽しい時間だった。彼の反応に失態などは少しもなかった。
唯一問題があるとすれば、俺だ。俺の下着の中に引きこもった軟弱なイチモツだ。
俺のペニスは、此度も立ち上がれなかった。あれほどまでに過激で卑猥な場面にその身を置きながらも、セックスに対するやる気を十分に抱きながらも、ムキムキの彼が気絶するまで一切勃起しなかったのだ。俺はあんなに興奮していたのに。あんなに盛り上がっていたのに。格闘技にも近いほどに激しく肉体を絡ませながら精液を全身に浴びてもなお、ピクリともせず、ずっと沈黙していたのだ。
――インポテンツなのだろうか。
一度目の失態に続いて二度目の挫折を味わった俺は、自身のペニスに生じている問題について憂いを感じていた。童貞というコンプレックスにインポテンツというオプションまで付与されてしまったとしたら、俺は一体どうやって生きていったら良いのだろうか。
個人的な悩みで口ごもる俺の顔を不安気にムキムキの彼が覗き込む。いけない、妻に心配を掛けてしまった。
俺は慌ててカッコ良く笑い、「すごく可愛かったよ。体は大丈夫かい?」と彼に訊ねた。すると彼はポッと顔を赤らめながら、視線を床へと落としつつ照れた様子でおずおずと小さく口を開いた。
「はい、大丈夫です。セックスって、すげえ激しいんですね。俺、途中から全然覚えてないんです。でも、アルファ様に抱いてもらって、魔力が溢れて止まりません。ここにアルファ様の子種を頂いたおかげですかね。ありがとうございます、アルファ様。俺、アルファ様の伴侶になれて幸せです。……でも、恥ずかしいから、今日の事は俺とアルファ様だけの秘密にしておいてくださいね」
彼もまた、自分のアナルに俺のペニスが挿入され、中出しに至ったと思い込んでいるようだった。
そんな事実は少しもないが、魔力はまたもや俺と彼とのセックスを認めてくれて無事に増加したらしい。俺と俺のふにゃふにゃ童貞ペニスはホッと安堵し、彼の勘違いに都合良く乗じて「わかったよ」と努めてクールに微笑んだ。
ムキムキの彼は赤く染まった満面の笑みを俺に向けて、両手を振って元気に俺を見送ってくれた。彼の家を出た俺は、二度のセックスを達成した己の実績を振り返りながらも、なかなか明るい気分にはなれずにいた。自分はインポテンツなのではという疑いが俺の呪縛となって、キリキリと心身を締め付けていたのだ。
下着の中で俺のペニスは戸惑っていた。自分がどうして勃起する事が出来ないのか、全く原因が分からなかった。もしやこのペニスは飾りなのではという疑いすら抱くほどに、俺は追い詰められていた。
本当にこれは生えているのか、バーチャル的な仮想現実が生えているのではなかろうかという疑惑を抱いて下着の中を覗き込むと、そこには確かに一本のペニスが生えている。つんと指先でつついてみると、物理的な質感がある。竿もあるし、玉もある。魔王の襲来から世界を救うという任務を請け負った柔らかなおちんちん。勃起という厳つい熟語などとは無縁のような、油断しきったふにゃふにゃのおにく。俺はそれを見つめながら、(どうしたらペニスは勃つのだろうか)という性知識の初歩の初歩まで己の脳を遡らせなければならない所まで追い込まれていた。
自身の着衣を寛げてペニスを観察している俺の奇行を、運悪く目撃してしまった村人がいた。アッと驚きの声を上げて立ち止まった通りすがりの村人を捕まえた俺は、彼を物陰に引きずり込んでその肉体を無遠慮にまさぐり、思う存分射精させた。アンアンと喘いで俺に縋る無垢な彼は大層愛らしく、俺は激しく興奮しながら彼の体を貪った。
結果、俺のペニスは勃起しなかった。彼は行為の途中で気絶し、次に目を覚ました頃には「アルファ様の精液を頂いたおかげで魔力が向上しました」と俺に中出しされたと思い込んで感激していた。
その後目についた村人を捕まえて行為に及んだ時も結果は同じだった。
その次の村人と行為に及んだ時も結果は同じだった。
その次も、その次も、その次もその次も同じだった。
――ペニスが勃たない。
認めたくない大問題をついに受け入れた俺が困りに困った果てに行き着いたのは、安息のトーゴの家だった。
「ようアルファ! お疲れ!」
トーゴがニッコリと笑いながら俺の来訪を出迎える。フラフラと覚束ない足取りで歩く俺にきっと違和感を抱いただろうが、そこには触れずに椅子に座らせてくれたトーゴは何も言わずにキッチンに向かい、魔法でヤカンに水を満たすとそっとそれを火にかけた。
なあトーゴ、俺インポかも。
その一言を伝えたいのだが、果たしてこんな泣き言を言ったところでトーゴを困らせてしまうだけではないのかという強い後ろめたさを感じ、俺はなかなか口を開けないままでいた。
機嫌良く鼻歌を歌いながらヤカンを見守るトーゴの後ろ姿を眺めつつ、言いたいことも言えないままでシュンとしながら椅子に座る俺の姿は、きっととても惨めな様相を醸し出しているに違いない。それでも俺は昨晩充填した『カッコ良く振る舞う』という力を使い果たしてすっかりヘトヘトになってしまっており、素の情けない己の姿を曝け出さずにはいられなかった。
無事にお湯が沸いたようで、ニコニコしながらティーポットを持ったトーゴがやって来る。俺は少しでも元気なフリをしようとしたが、恐らくトーゴの前でそんな虚勢を張ってもすぐに見抜かれてしまうだろうと諦め、正直に疲弊した姿を丸出しにしてヨロヨロとマグカップを受け取った。
「だいぶ疲れてるみたいだな。あんまり無理すんなよ」
穏やかな声色でトーゴが俺を励ましてくれる。すっかり飲みなれたハーブティーをすすると、疲れ切った心身の深部までその温かさが沁み込んでいった。
俺はどうやって彼に自分の深刻な悩みを打ち明けるべきか考えていた。俺の事をこの世界を救う凄いペニスの所持者だと思っているトーゴにとって、俺がインポテンツであるという告白はあまりにも衝撃的な物だろう。ショックのあまりに寝込んでしまっても仕方がないかもしれない。しかし、トーゴは精力剤としての効能を持つハーブティーを調合できる男だ。勃起不全を改善させる効能を持つお茶を調合することだって、もしかすると出来るのかもしれない。
頼れる相手はトーゴしかいないが、トーゴを傷付けるのははばかられる。そんな葛藤に蹴躓いて前に進めず押し黙る俺に対して、トーゴは柔和な笑みを見せつつ「すごいなあ」と感心した調子で呟いた。
「えっ? 何が? 俺が?」
「そうだよ、お前だよ。今日はすごかったみたいだな」
はしゃいだ様子のトーゴを見つめ、俺はひたすらキョトンとしていた。
確かに今日は、濃厚だった。今朝までは一切経験が無かった性行為を、今日一日で俺は何度も経験した。童貞こそ捨てられなかったものの、俺は数多の男達を射精に導き、快楽の果てに気絶させ、彼らの魔力を大いに高め、その満足感の強さゆえに挿入及び中出しがあったと誤認させ、うっとりとさせて今に至るのだ。もしも俺が今日という日を夏休みの絵日記のようにまとめたとしたら、日記の範疇を大いに越えた分厚い自伝を書き上げるだろう。
だかしかし、それをなぜトーゴが知っているのか。俺は困惑し、もしかすると村全体に監視カメラでもついているのか、あるいはそれに準ずる魔法を使えるものが村にいるのか、それらの可能性を疑い身構えた。そうだとしたら、俺のペニスが誰のアナルにも入っていない事がバレてしまう。もしも監視カメラの機能を超越して下着の中までをも透視する魔法を使えるものが村にいたなら、終日引きこもり生活を貫いた俺の情けないふにゃふにゃ芋虫がバッチリと見られ、童貞という罪のみならずインポという枷まで負った深刻な事実がバレてしまう。そんな危機感を強く抱き、唇の震えを必死に隠して「何が?」と俺はすっとぼけた。
もしかすると、ただカマをかけているだけかもしれない。あるいは、全然関係のない話かもしれない。
そんなすっとぼける俺に対し、トーゴが嬉しそうに続ける。
「セックスだよ」
直球を投げつけられた俺はその場にのけぞり、しかしこんなのは何でもないのだと振る舞うために素早くピンッと姿勢を正して冷静にマグカップへと口を付けた。
「なんで知ってんだ?」
マグカップを持つ手の震えを押さえながら、全力のさりげなさを装い訊ねる。冷や汗が滲む。そんな俺の緊張感など全く気にも留めない様子で、ハハッと軽くトーゴが笑った。
「ここまでしっかり聞こえてきたよ。今日、パイカさんの所に行ってたんだろう? あの人って、セックスの時にあんな声を出すんだな。すごく激しそうだったじゃないか。俺、何が起きてるんだろうかと思ってドキドキしてたよ」
そんなトーゴの発言を受けた俺は、己の不安が杞憂であった事を悟った。そしてそれと同時にあのムキムキの彼の名前を知り、そしてその嬌声がこの家まで高らかに響いていた事を知った。
彼の家からこのトーゴの家までは随分と距離がある。もしもここまで彼の喘ぎ声が元気に聞こえていたとしたら、きっとその声はこの村の全ての家々に響いていたに違いない。
「……なあ、トーゴ。それはパイカさんには黙っていてくれるか? あの人、結構シャイな人だからさ。あの声が村中に聞えていたなんて知ったとしたら、きっと恥ずかしくて泣いちゃうよ」
「そうなのか? アルファが言うなら分かったよ。他の皆にも、パイカさんの喘ぎ声が村中に聞えていた事は内緒にしておくように伝えておくよ」
「ああ、是非そうしてくれ」
俺の行為が監視されていた訳ではない事を把握してホッと胸をなでおろしつつ、しかしどうにも使い物にならないペニスが抱える問題については何一つ解決していないため、油断が許される状況ではないのだという緊張感は手放す事が出来なかった。
ハーブティーをすすりながら、俺はチラリとトーゴの方へと視線を向けた。トーゴは嬉しそうにニコニコとこちらを見つめており、俺の憂いを見抜いている様子は見受けられなかった。
俺がムキムキのパイカさんとセックスをしたと思っているのだ。パイカさんのアナルに俺がペニスを入れたと思っているのだ。一仕事終えた男を見る目で穏やかにこちらを見つめて来るトーゴの視線を受けた俺は何とも居たたまれない気持ちになったが、しかしそんな事を知らないトーゴのどこまでも清らかに澄んだ瞳は嬉しそうにジッとこちらを見つめていた。
「アルファ、今日はすごく頑張ったな」
「えっ? 何を?」
「とぼけなくても分かるよ。今日一日で、この村の魔力が一気に増加している。――ああ、アルファは魔力がないからな、肌で感じられないのも当然かもしれないな。だけど、魔力を持つ村の人たちはきっと皆感じているよ。村全体としての魔力が一気に向上したことを。これ、アルファのおかげだろ? 今日だけで何人抱いたんだ?」
俺は閉口した。たとえムキムキのパイカさんの巨大な嬌声がなかったとしても、監視カメラ的な魔法を使うものがいなくとも、俺のセックス行脚については村中に知れ渡っていたのだ。己の性事情が不特定多数に丸分かりという状況に、一気に羞恥が込み上げる。エッチをしたら一瞬にして皆にバレるという状況に限りなく強い羞恥を感じて口を閉ざしてしまった俺のその反応を、トーゴはにこやかに眺めている。
「そんなに一瞬で数え切れないほどに抱いたんだな。すごいなアルファ。さすが世界の救世主だ」
トーゴはどうも、俺という人間を恐ろしく過大評価しながら都合良く解釈する癖があるらしい。押し黙った俺の反応が彼の目には本日のセックスの相手を数えている絶倫好色男の姿として見えたようだ。
確かに性的な行為はした。しかし、俺のペニスは未だピカピカ新品のままである。全く無垢な芋虫である。なぜなら俺は、セックスの際にすぐに相手を気絶させてしまう上に、全く勃起できないままで全てを終わらせる、ダメダメ総攻め主人公だからである。
正直にインポテンツを打ち明けようと口を開いた俺に先んじて、トーゴが嬉しそうな声を上げた。
「きっと今頃、村中の皆が次こそ自分の番が来るんじゃないかと思って期待している頃だろうよ。皆がお前の事を好きで好きで堪らないんだ。皆がお前に抱かれたがってるんだ。お前に抱かれて強い魔力を会得したいと、強く強く願っているんだ。アルファのおかげで、皆の心が一つになっている。ありがとうな、アルファ」
怒涛の如き称賛と期待。俺は開いた己の口から言葉を紡ぐ事をやめ、大人しく温かなハーブティーをすすった。
俺は童貞でありインポですなどと、そんな事を打ち明けられる空気ではなかった。
トーゴの穏やかな眼差しが、俺の良心の真ん中を貫く。真っ直ぐすぎる信頼に満ち満ちているその眼差しを、裏切る事など出来なかった。
「トーゴのハーブティーのおかげだよ。これからはもっと精力を高めて、もっともっと皆の魔力の向上に貢献するよ。まだまだ妻はたくさんいるからね」
「俺のおかげ? それは照れるな。俺にはこれくらいのサポートしか出来ないけど、少しでもお前の役に立てているなら嬉しいよ」
笑うトーゴの顔を見ながら、俺は自身の悩みの種を沈黙のペニスの奥へとしまい込んだ。これは誰にも秘密にしておく必要がある。きっとそのうち治るだろう。俺のペニスを使用せずとも、村人たちの魔力は上がるのだ。今日のように、これからも上手い事やり過ごそう。ペニスに抱えたこの秘密と、秘密を抱えたこのペニスは、誰にも決して見せてはならない。皆の期待に応えるために、全てを隠し通さねばならない。
硬くならないペニスの代わりに密かに決意を固めながら、俺はふと頭に浮かんだ疑問をトーゴに投げかけた。
「ところで、この村は魔王と戦ってるんだよな? 魔王との戦いってどのくらいのペースで起こってるんだ?」
俺がこの村にやって来てから、周囲の環境は実に平和な物だった。とても抗争中の世界であるとは思えない。
魔王の魔の字も感じさせない平和な環境の中に置かれ、俺はこの世界が本当に魔王の襲撃を受けている物であるのか、少々疑いを抱いていた。
「三日後だ」
トーゴが言う。俺はそんな彼の返答の意味を瞬時に理解できず、「えっ?」と間抜けた声色で改めて頭上に疑問符を浮かべた。
「次に魔王が来るのは三日後だ。魔王は毎週、日曜日の午前中に来るんだ。そしてこの村をボロボロにして、俺達は一週間かけて村を復興させて、そして一週間後に改めて魔王を迎え撃つんだ」
当然のようにそう語るトーゴの言葉に、俺は何と言ったら良いのか分からなかった。
壊しては作り直し、壊しては作り直す。それはまるで打ち寄せる波に晒された砂浜で行われる砂遊びのようにとても儚く、とても虚しい行為であると思えた。
魔王に見つかる事のないよう、隠れた場所に集落を築くという事だってできただろう。しかし魔王軍と戦う事を使命としている彼らにとっては、魔王の襲撃から逃れながら生きていく選択など端からありはしないのだ。この場所で暮らし、この場所で魔王を迎え撃つ。刹那的な生活の中で世界のために戦う彼らの生き様について想うと、俺のペニスの悩みなんて実にちっぽけに感じられた。
この村は、魔王に壊されては再建し、壊されては再建しを繰り返して来たのだ。俺がこの村にやって来たのは、魔王の襲撃を受けた村を復興させるべく村人たちが力を合わせて頑張っていた頃だろう。あろうことか、俺はそこで自分を吸血鬼だと思い込み、村人たちを襲撃したのだ。この村に住まう人々にとって、俺の襲撃は青天の霹靂だっただろう。突然現れた謎の男が次から次へと村人たちの首を噛んで己の妻を量産していくその光景は、ひたすら狂気的だっただろう。
俺は己の行いを改めて反省し、その後ようやく『三日後』という期間の短さに驚いた。
「えっ、三日で魔王が来るのか? じゃあ、それまで皆の魔力を高めないといけないのか」
「ああ、そうだな。出来ればそうしてもらいたい」
トーゴが軽い調子で言う。その口ぶりには、アルファなら出来るだろうという過剰な信頼に満ち溢れていた。
魔王が来る。インポに悩んでいる場合ではない。動揺する俺に対して、トーゴが柔和な笑みを見せる。
「大丈夫だ、アルファ。このお茶には、ペニスの皮を頑丈にする効果もある。三日間で村人全員とセックスをしても、ペニスが擦り切れる心配はないから安心してくれ」
精力向上だけではなくペニスの保護もしてくれるとは、なんと有能で都合の良いお茶なのだろう。気付かぬうちにふにゃふにゃペニスの柔らかな皮を厚くされていたらしい俺はマグカップを煽りながら、しかしトーゴの言う通りに安心する事も出来ず、唐突に目の前に突き付けられた三日間というタイムリミットに怯えていた。
あと三日で魔王が来る。この三日で村人たちは魔力を増加したいと思っている。
あと残りは何人だろう。混乱と同様でまともに数も数えられずに目を回す俺の背中をトーゴの手がポンと叩く。
「頑張ろうな、アルファ。俺も協力するからさ」
ニッコリと笑うトーゴの顔には、この三日間で俺が一人残らず全員の妻とセックスを果たすに違いないという確かな信頼が満ちていた。ふにゃふにゃのペニスには背負いきれない、それはあまりにも甚大すぎる期待であった。けれど、今の今まで童貞である事実も勃起が出来ない事実も何一つ打ち明けられないまま虚勢を張り続けた俺には、引き続き堂々と虚勢を張る他に何も道は残されていない。
「任せろ、トーゴ。きっとお前の期待に応えてみせるよ」
カッコ良い笑顔が品切れ状態となった俺が見せた笑顔は、この世界を救う総攻め主人公などではなく、おそらく何の魅力も持たないただの俺の顔だった。顔色の悪い、吸血鬼と誤解されても仕方がない、そんな俺の笑った顔を向けられたところでトーゴは何も嬉しい事はないだろう。それでも彼は満足気に頷くと、再び俺のヒョロヒョロの背中をポンと叩き、再び深く頷いた。俺は居たたまれない気持ちで、ずずっとハーブティーをすする。
皮ばかりが頑丈になっても仕方がない。ペニス自体が勃起しなければこの軟弱な芋虫が用立てられる事はない。
いっそペニスにこの熱々のハーブティーを直接浴びせてみようかなどと一か八かの自傷行為まがいの事を思いつつも、もちろんそんなぶっ飛んだ度胸など微塵も持っていない俺は、大人しく経口にて効能を得るべく静かにお茶をすすり続けた。
このハーブティーに縋るしかなかった。ハーブティーをすすりながら、俺はペニスに心の中で語り掛けた。
(よう、弱虫。一丁前にやる気になっても、全然立ち上がらないじゃないか。お前は飾りか? 違うだろ? 俺と一緒に世界を救う、この物語の主人公だろ?)
下着の中でジッと黙する臆病ペニスは、精力剤の後押しなんて全く関係がないかのように静かに眠り続けている。
あと三日、この頼りない相棒と共に村中の魔法使いを強化しなければならない。
童貞もインポも、決して誰にもバレてはならない。
村人たちは皆俺を好いてくれているのだ。カッコ良いアルファ様でいたい。
誰も失望させたくない。皆の期待に応えたい。
俺は、この世界の主人公なのだ。
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