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 しゃがみこんで薬草を採集している彼の姿を遠くに見付ける。  ぐすぐすと鼻を鳴らしながら服の袖で目を拭いながら黙々と薬草をむしる彼に背後からそっと近づき、ポンと軽く背中を叩く。 「トーゴ」  無心で草をむしっていたのだろう。突然声を掛けられた彼は驚きのあまりに尻もちをついて慌ててこちらへ振り向くと、すぐに両腕で顔を隠して俺から離れようとした。俺はそんな彼を素早く捕獲し、両腕で強く抱きしめる。 「帰れって、言っただろっ」 「帰れないよ。こんなにトーゴが泣いてるのに」  泣いてないっ、と強がりを言いながら俺の腕の中から逃げ出そうとするトーゴをギュウギュウと容赦なく抱きしめる。  食らえ、トーゴ。これが総攻め主人公の抱擁だ。全世界を抱く男の腕だ。そう簡単に抜け出せられると思うなよ。  しばらくトーゴはもがいていたが、やがて自分が脱出不能な束縛の中に囚われた事を受け入れると大人しくなり、力なく俺の服を掴んだ。 「なあ、トーゴ。なんで泣いてんの?」  嗚咽に震える背中を撫でる。トーゴは首を左右に振って泣いてない泣いていないとしばらく意地を張ってみたが、やがて観念して素直にポツポツと語り出した。 「よわいから」 「弱いから泣いてんの?」 「くやしいから」 「悔しくて泣いてんの?」 「やくたたずだから」 「役立たずだと思ってんの?」  大きな赤子をあやすように、ゆっくりと優しく背中を撫でる。ポロポロと溢れる自責の言葉を一つ一つ拾い上げつつ、俺は彼の耳元にそっと唇を寄せ、脳の奥の劣等感へと語り掛けた。 「トーゴは全然役立たずじゃないよ。ハーブティーでサポートしてくれたのも勿論助かったけど、それだけじゃない。お前のおかげで、俺がどれだけ救われてたか知らないだろ。皆がアルファ様アルファ様って過剰に俺を慕う中で、お前だけはいつだって対等に俺の事を見てくれた。百人弱とセックスしないといけないなんて狂気じみた世界の中で俺が正気でいられたのは、お前がいてくれたからだよ。絶対にお前は役立たずじゃない。俺にとって、トーゴは大事な存在だよ」  彼の温もりを抱きしめながら、穏やかに丁寧に語り掛ける。そんな俺の言葉に対して、トーゴは素直にウンウンと小さく頷き静かに耳を傾けてくれた。 「どう? 他にも泣いてる理由があるなら聞くけど?」  嗚咽は徐々に治まっており、そろそろ冷静に話が出来そうな気配があった。嫌がられてしまうだろうかと思いながらも、そっと腕の力を緩めてトーゴの顔を覗き込む。目と鼻を真っ赤に染め、涙と鼻水でびしょ濡れの顔は大変なことになっていたが、その顔を見た俺の心が感じていたのは(可愛いなあ)という純粋な好感だけだった。  トーゴが気まずそうに目を伏せながら、涙声で小さく呟く。 「おれだけ、」 「うん?」 「みんなはセックスできるのに、おれだけ、セックスできないから」  拗ねた子供のようなその言い草に、堪らずフハッと笑い声が漏れる。笑われたトーゴは唇を尖らせて怒った。 「だってそうだろ。俺はお前に噛まれてないんだから。俺はお前の妻じゃないし、セックスで高めるような魔力だって十分に持ってないんだよ。俺だってセックスしたいよ。皆みたいにお前に抱かれたいよ。でも、お前の精液は貴重なんだ。他の人に譲るべきだろ」  プンスカ怒り出したトーゴを抱きしめ、ワシャワシャと激しく頭を撫でる。  そうか、トーゴ。お前、俺とセックスしたかったんだな。  俺と皆がセックスするため一生懸命にサポートしてくれている傍らで、本当はお前も俺とセックスをしたいとずっと思ってくれていたんだな。  心の底から温かな感情が勢いよく込み上げ、俺の体が強い衝動に突き動かされる。気付けば俺はトーゴの尖った唇に自分の唇を押し付けていた。ちゅ、ちゅ、と小さなリップ音を立てて何度かキスをした後にトーゴの表情を見ると、そこにあったのは怒った顔でも笑った顔でもない、真ん丸く目を見開いたままビックリして固まっている大変可愛らしい顔だった。 「なんだよ、トーゴ。お前、俺の事好きなの? 俺に噛まれた訳でもないのに、俺にメロメロになっちゃったの?」  信じられない物を見るような目で俺の目を見たトーゴは、自分に何が起きたのかイマイチ分かっていないような様子でありながらも、俺の質問に対してウンと素直に頷いてくれた。答えはそれだけで十分だった。  俺は再びトーゴの唇に食らいつき、強く彼を抱きしめた。  柔らかな下唇を軽く食む。生まれて初めてのキスにトーゴは戸惑っている様子だったが、それでも一切抵抗を見せることはなかった。緩んだ肉の隙間に舌をねじ込むと、ビクリとトーゴの体が震える。他者の舌が咥内に入り込む未知の感覚に、怯えているのかもしれない。  だが、未知であるのはお互い様だ。俺だって、これが生まれて初めてのキスだ。作法もルールも何も知らない。見様見真似のめちゃくちゃなキスだ。差し込んだ舌で熱く濡れた彼の舌をゆるりと捕まえ、ヌルヌルとそれらを絡ませ合う。トーゴの息が荒くなっていく。舌先で上顎をくすぐると、荒く乱れた呼吸の隙間にフゥンと甘いトーゴの声がほんのりと混ざった。  トーゴの腕が俺の背中へと回される。咥内を貪られながら必死に俺にしがみ付くトーゴの体は熱く、押し付けられた彼の股間は固く膨らみつつあった。唇を離すと、とろんと表情を溶かしたトーゴと目が合った。それが先ほどまで泣きながら一人で薬草をむしっていた男と同じ人間の顔なのだと思うと、そこから感じられる健気さといじらしさにキュンと胸が締め付けられ、俺は堪らず柔らかな草むらにそのまま彼を押し倒し、再び深く口付けた。  青々と茂る草の匂いに包まれながら、ちゅ、ちゅ、と唇から頬、首筋へとキスを落としていく。もしも俺がトーゴの首にこのままガブリと歯を立てたら、彼は俺の妻になるのだろう。本能的に俺を好み、俺にメロメロになるのだろう。そんな事を考えながら、俺はトーゴの汗ばむ首に歯を立てる代わりにねっとりと熱く舌を這わせた。 「んっ、ぁぁ……ッ」  トーゴの喉仏が動く。小さな嬌声を漏らしたトーゴは顔を赤らめ、咄嗟に片手で口を塞いだ。 「……ごめん、なんか、変な声でた」  羞恥に顔を歪める彼の手首を掴み、そっと顔から引き剥がす。現れた唇にチュッと口付け、恥じらうトーゴの頬を撫でる。 「変じゃないよ、すごく可愛い。全部聞かせて。興奮するから」 「アルファは、俺の声で、興奮、するのか……? んん、は、ぁ、ああッ!」  喉仏をチュウッとしゃぶり、首筋をゆるりと舌先でなぞる。トーゴは俺が彼の声で興奮すると聞くと、漏れ出る嬌声への抵抗をやめ、真っ赤になって恥じらいながらも素直に鳴き声を上げてくれた。  首に噛み付く必要などなかった。身も心も、トーゴは俺を純粋に求めてくれていた。 「トーゴって結構エロいんだな。気付いてる? さっきから、ずっと俺の足に股間グリグリ擦りつけてるの」 「あっ、うそ、ちがう、ごめん、ァんんッ!」  グッと太腿でトーゴの股間を圧迫すると、彼の体がビクンと跳ねる。無意識ながら勃起したペニスを俺の体に擦りつけて快楽を感じていたらしいトーゴのいやらしさに、ドキドキと胸が高鳴っていく。俺の体を使って自慰まがいの行為に及んでいたのを指摘されたトーゴはボッと燃えるほどに顔を火照らせ、慌ててふるふると首を左右に振る。それでも襲い来る快感には勝てないのか、ちがう、ごめん、などと言いつつトーゴの腰はなおも小さく揺れており、俺の体へとペニスを押し付けガチガチに硬く勃起していた。  着衣越しのトーゴのそこに手を伸ばす。軽く手を這わせるだけでトーゴの体は緊張し、目を潤ませてハフハフと熱い吐息を漏らす。じっとりと湿った感触に、俺の手のひらが熱を持つ。既にこの着衣の中は大洪水であるのだろう。辛抱堪らず、勃起したペニスの先端から滾々と我慢汁を漏らして下着をぐっしょりと濡らしているのだろう。 「ここ、苦しいだろ? 脱がせても良いか?」  濡れそぼった着衣の上からゆるゆると股間を扱きつつ、トーゴに服を脱がせる許可を求める。ビクンビクンと震えるトーゴは俺のそんな呼びかけに対して必死にウンウンと首を振って、どうか早く脱がせてくれと催促した。羞恥を越えた興奮と快感にトーゴは蕩けている様子だった。  ベルトを外し、濡れたズボンをゆっくりと下ろす。お漏らしをした子供のようにびしょ濡れの下着が露わになるが、それは決して子供のペニスではない。元気いっぱいにテントを張ったトーゴのペニスは、先端から溢れた男の蜜を下着越しにプクリと溢れさせ、びしょ濡れの布地を一層広く淫靡なお漏らしで染めていた。  濡れそぼった下着を脱がせると、ぶるんと元気良くトーゴの陰茎が飛び出した。我慢汁で濡れた先端は木漏れ日を受けて艶々と輝き、俺の目を大いに喜ばせる。屹立する幹の根元に見える陰嚢はぷっくりと美味しそうに熟れており、大好きな俺から与えられる刺激を今か今かと待っていた。  太腿に手を掛け脚を開かせ更に下へと目を向ければ、トーゴの可愛いアナルが見えた。幹から玉、そして蕾へと伝った大量の我慢汁はしっとりとアナルを濡らしており、まだ何もしていないというのにヒクヒクと震えてペニスの到来を待っていた。 「ばか、あんまり、じろじろ見んなよ……恥ずかしいから……」  えっちだなあ、と感心しながら彼の臀部をしげしげと観察していると、その目線に耐え切れなくなったトーゴが白旗を振った。眉を八の字にしながら真っ赤になって弱々しく訴える彼の反応が可愛くて、ついつい意地悪をしたくなる。  俺はひくつく彼のアナルにフッと軽く息を吹きかけ、アンッと甲高い嬌声と共にその蕾がキュウッと窄まったのを見ると、笑いながらトーゴに向かって声を掛けた。 「可愛いから見たいんだよ。トーゴの体、すごくエロくて興奮する」 「そんなとこ見て、興奮すんのか……? じゃあ、見ても良いよ」  煌々と火照る顔を背けたトーゴが、下半身をじっくりと観察する許可をくれた。どうやらトーゴは、俺を興奮させたいらしい。俺が興奮するのであれば、自分の羞恥は二の次にして全てを許してくれるらしい。  俺の事が大好きすぎるトーゴの献身に心が茹だる。彼のシャツに手を掛け、上も下も全ての着衣を綺麗に脱がせる。青々と茂る草むらの上、トーゴの裸体が露わになる。チラチラと輝く木漏れ日の下、赤く染まってしっとりと汗ばむ淫らな肌が露わになる。  自然の中で剥き出しになった彼の体に手を這わせる。太腿から腰、脇腹から胸。汗に濡れたトーゴの肌をナメクジのようにゆっくりと撫でると、ただそれだけで甘い刺激が肉体に快感をもたらすのか、天を仰いだ丸出しのペニスはヒクヒクと元気に踊っていた。 「あっ、あっ、アルファ、ああッ」  無邪気なペニスを手で覆い、何も知らない無垢な乳首にチュッと軽くキスをする。手のひらに覆い隠された幹がビクリと震え、じゅわりと先端から露を零す。その湿り気を塗りつけるように、裏筋をゆったりと優しく撫でつつ、舌先でクリクリと乳首を転がす。甘く蕩けたトーゴの体は未知の快楽の波に飲まれ、体を捩って激しく悶える。 「あるふぁ、あっ、それ、おれ、だめ、アッ」  チュウッと強く乳首を吸うと、トーゴは自らガクガクと激しく腰を振って俺の手のひらにびしょ濡れのペニスを擦りつける。ぐちゅぐちゅと卑猥な音が草むらの静寂を淫らに濡らす。  訳も分からず必死に腰を振るトーゴが、己の乳首をチュウチュウと吸う俺の後頭部を掻き抱く。毛髪が引っ張られて痛い。けれど全く構わない。たとえこのまま全身の毛を一本残らずむしり取られたとしても、そんな事はどうでも良い。俺はトーゴの平たい胸を執拗に舐り、小さく尖った愛らしい乳首を舌でぐりぐりと摩擦しながら、手のひらに得るトーゴの淫らな欲望の猛りだけを夢中になって感じていた。 「ああああッ!」  グッ、とトーゴが背を反らせる。ビュルンと勢いよく迸った精液が、彼のペニスを覆い隠す俺の手の中から溢れ出る。振動する陰茎からびゅくんびゅくんと断続的に噴き出す大量のそれをしっかりと手の中に受け止めた俺は、そのままぬるりと手を滑らせ、熱く濃厚な彼の液をヒクヒクと震えて甘えるアナルに塗りつけた。  トーゴの蕾は既にふやけて軟らかく花開きつつあった。軽く這わせた指の腹は、俺が何かを思う間もなく、まるで蟻地獄に迷い込んだ蟻のようにズルリと第一関節までを彼のアナルに飲まれていた。俺は驚き、トーゴの顔を覗き込んだ。 「なあ、トーゴ。もしかして、自分でここ、最近いじった?」 「あっ、ごめ、んんんんッ!」  両手でトーゴが顔を隠す。その正直な反応を好ましく思いつつ、「顔見せて」と率直にねだると、トーゴは酷く恥ずかしそうに萎れた表情を俺の前に見せてくれた。茹でダコと化した真っ赤な彼の濡れた頬に手を伸ばす。羞恥に燃えたトーゴの頬をすりすりと撫でると、俺の指の先端を咥えた彼のアナルがキュウッと締まった。 「ここをいじりながら、俺に抱かれる想像をしてた?」  指先をアナルに吸われた俺は気分を良くし、調子に乗った質問をする。何言ってんだよ、と一蹴されても構わないような戯れの問いだが、トーゴは素直にウンと頷き再びヒクヒクとアナルを震わせた。  自分にはセックスの機会がないと諦めながら、トーゴは一人で己のアナルを慰めていた。  俺に対してひっそりと好意を抱きながら、人知れず淫らな自慰に耽っていた。  彼の秘められた一面を知った俺の心は歓声に沸き、そして彼のアナルに埋められた俺の指は奥へ奥へと来訪者を誘うように蠢く肉壁に吸い込まれ、ズブズブとその根元までを彼の中へと沈めて行った。  ゆらゆらとトーゴの腰が揺れる。激しく精液を迸らせていた彼のペニスは萎えることなく頭を持ち上げ、挑発的に俺の視界の中で踊っている。とぷ、と先端から溢れ出たのは我慢汁か精の残滓か、重力に従いトロリと陰嚢に雫を落とす。その雫は陰嚢の裏を伝い、俺の指を愛らしくしゃぶるアナルへと流れつき、熱くふやけた肛門の肉を更に柔らかくほぐしてくれる。  突き立てた指をゆっくりと抜き、再び奥へと挿入させる。ぬちゅ、と溢れ出る卑猥な水音が、俺とトーゴの鼓膜を揺らす。 「は、ァ、ああ……んん、ふ、ぅぅん……」  ぐちゅ、ぐちゅ、と指を出し入れする度、トーゴは体を捩りながら肉体を巡る快楽の熱に甘く喘ぐ。収縮と弛緩を繰り返す肉壁は、食い千切らんばかりの勢いで俺の指にしゃぶりつき、もっと欲しい、まだ足りないと、上の口以上に饒舌なおねだりを繰り返していた。 「おれも、おれも、アルファに、さわりたい……っ」  はふはふと快楽に溺れた呼吸を繰り返しながら、トーゴが甘えた声を出しつつ俺の股間へと手を伸ばす。俺は動揺した。そこはいけない。そこはだめだ。俺のそこは、使い物にならないからむしって魔王に投げつけようと思っていた、どうしようもないなまくらペニスなのだ。  インポがバレてしまう。  そう思って慌てて腰を引こうとしたが、片手をアナルに取り上げられていた俺はトーゴによる奇襲の回避に失敗した。  彼の手が、着衣の上から俺に触れる。アッと情けない悲鳴が漏れる。  どうしよう、バレてしまった。触れてはいけない禁忌に触れた。ふにゃふにゃ芋虫状態のままでいつまでたってもサナギになれない、柔らか弱虫おちんちんの存在がトーゴにバレてしまった。  なんと言い訳をしたら良いのかと慌てる俺など全く気にしていないかのように、トーゴが嬉しそうに笑う。 「これがアルファのチンコか……! 俺に興奮して、こんなに勃起してくれたのか……!」 「えっ? アッ!」  トーゴの手が着衣越しに俺のペニスの根元を掴み、ゆっくりと上下にスライドする。ググッと血管が膨張する。股間を中心に温かな快感がじわりと広がる。  久しく得られていなかった感覚。目線を下に向けた俺は、自分の股間が大きく膨らみ着衣の中で苦し気に勃起している事に気付いて驚いた。  勃起できた、と無邪気に喜ぶ余裕はあまりなかった。うっとりとしながらトーゴが俺のペニスをゆるゆると扱いていたからだ。  すっかりご無沙汰していた快感が俺の下半身を猛らせる。先端からジワリと我慢汁が滲んで下着を僅かに湿らせてしまった感覚がある。  すり、すり、とトーゴの手が俺の幹を丁寧に扱く。油断すれば情けない声が出てしまいそうな危うさに腰が引ける。これはマズイ。俺はカッコ良い総攻めでいたい。堪らずトーゴの手淫を制止しようとしたけれど、しかし久々の快楽に身を任せたい欲望も同時に沸いており、どうしたら良いのか分からないまま性急な動作でトーゴのアナルに二本目の指を埋め込んだ。 「ああん……ッ!」  ビクンとトーゴの体が跳ねる。俺のペニスを撫で回していた彼の手淫が一時的に止まる。俺は少しだけ心の余裕を取り戻し、彼の中に埋め込んだ指をグニグニと曲げて熱い内壁を刺激した。  どうするとアナルは快感を得るのか、俺は知らない。俺にも肛門は存在するが、専ら排泄器として使用するばかりだ。本来出口であるその部位を入り口として使用する際、どのような刺激が望ましいのだろうか。俺はこの世界の総攻めという立場でありながらアナルについての知識が十分ではなかった。  グニグニと内壁を解しながら、ゆっくりと指を出し入れする。これで正しいのかは分からないが、甘い声を漏らしながら悶えるトーゴの反応からすると、きっと間違いではなさそうだ。 「ぁ、んんっ、あるふぁ、アルファのチンコで、アッ、俺、を、抱いて、くれよ……っ!」  乱れる呼吸の隙間を縫って、トーゴが懸命に訴える。懸命にそう訴えながら、俺への手淫を再開する。俺はグッと唇を噛み、押し寄せる射精欲をグッと堪えた。  この世界に転生してから一度も放たれていない精液は、つい先ほどまでクールに下着に収まっていた俺の二つの陰嚢の中へとひたすら蓄積されていた。勃起の仕方を忘れてしまい長らく放っておかれた陰嚢は、気付かない内に爆発寸前の所まで追い込まれていたのかもしれない。  いつ爆発するか分からない不発弾を抱えながら、未だかつてない欲求が俺の幹を震わせる。下着の中でいよいよ目覚めた俺のペニスが、ドクドクと血管を脈打たせながら射精の時を待っている。  封印から目覚めた俺の陰茎は完全に限界まで勃起しており、一触即発の状態であった。そんな一触即発のペニスが、着衣越しにトーゴに握られゴシゴシと激しく扱かれている。この一触即発限界ペニスがどうにか射精せずにいられるのは、ひとえに『俺はカッコ良い総攻め主人公なんだから、パンツの中に誤射なんて出来ない』という健気なプライドのおかげだった。  ――挿れたい。ただそれだけを強く願い、俺は必死に射精欲を堪えていた。  トーゴのアナルに三本目の指をズブリと沈める。生前の俺の性知識によると、指が三本ほど入るようになれば、ペニスを挿入しても良い頃合いだったはずだ。生前の俺、という一人の童貞による頼りない性知識であるため、もしかしたら違うかもしれないが、きっとそうだと信じるしかない。  トーゴのアナルは、俺の指を三本しっかり受け入れてくれた。根元までずっぽりと飲み込んで、それでも全く苦しむことなくキュンキュンと甘く疼いていた。  蠢く熱い肉の坩堝。じっくり砂糖で煮詰めた果実のように甘く蕩けたこの穴の奥にペニスをずぶずぶ埋め込んだなら、どれだけ気持ちが良いのだろう。  俺は自身の脳が溶けているような、そんな感覚に陥っていた。恐らく久々の勃起によってペニスに血液が集中し、脳に酸素が行き渡らなくなっているのだろう。トーゴの秘部からズルリと己の指を抜き、自身のベルトを引きちぎらんばかりで抜き取った俺は、ズボンとパンツを勢いよく脱いで下半身を露わにした。 「トーゴ、ごめん、俺、絶対にこのタイミングで言うべきじゃない事を言っても良いかな」  爽やかな木漏れ日の下、俺のペニスが曝け出される。じんじんと熱を持って膨張した先端は我慢汁に濡れており、ひんやりとした風に吹かれる僅かな刺激にも過敏に震え、尿道口をヒクヒクと震わせ必死に射精を堪えている。  屋外で爆発寸前のペニスを露出し、我慢汁を垂れ流しながらも精液を漏らしてしまわないよう死に物狂いで我慢している。カッコつける余裕などなかった。俺は今、きっとこの世界で一番カッコ悪い男であるという自信があった。カッコ良く微笑む事も、カッコ良い声で囁く事も、今の俺には到底できそうにもなかった。こんなカッコ悪い俺に迫られるトーゴが気の毒にすら思えた。それでもトーゴは嫌がる事無く、引く事もなく、甘く蕩けた艶やかな眼差しでまっすぐうっとり俺を見つめ、柔らく解けて濡れたアナルをヒクヒクと窄めて一途に俺を求めてくれていた。 「ずっと黙っていてごめん。村の皆は俺にペニスを挿入されたと思ってるけど、中出しされたと思ってるけど、本当はそんな事ないんだよ。本当は俺、童貞なんだよ。皆が都合良く誤解してくれて、俺の事を童貞じゃないと思ってるけど、本当の俺は誰にも一回もチンコを使った事がない、最初から魔力を持っていないだけのただの童貞なんだよ――……!」  溶けた脳は秘密を抑え込む力を失い、蓄積した罪悪感と共に訳も分からず全ての事実を白状していた。涙腺が緩んで視界が揺らぐ。爆発寸前の勃起を晒して童貞を暴露し涙ぐむ俺を、トーゴの瞳がじっと見つめる。  秒単位でどんどんとカッコ悪くなっていく俺を、トーゴはどんな気持ちで見ているのだろう。想像しようにも俺の脳は勃起したペニスに全てを奪われ、まともに機能する気配がない。カッコ良い総攻めとしてのハリボテの魅力を保っておられず、泣きべそをかきながら唐突に童貞をカミングアウトする吸血鬼じみたヒョロヒョロの男を、トーゴは何を思って見ているのだろう。 「……俺、童貞だけど、どうしようもなく童貞だけど、トーゴに、挿れても、良いのかな」  一ミリもカッコ良くない口説き文句だった。こんなにも無様な言葉があるだろうか。  総攻めのプライドなどは全て瓦解し、ここにいるのは一人の生身の童貞だった。脳をペニスに吸い取られた俺は自分が何を言っているのか分からないながらも、物凄く惨めで恥ずかしい事を口走ってしまっているような漠然とした焦燥感を持っていた。  タラタラと溢れ出る我慢汁のように、汗も涙も、今の今まで抱え込んで来た秘密の事実も、全てが漏れ出て止まらなかった。晴天の下へと露出されたペニスは既に爆発寸前で、勢い余って曝け出す必要がなかったものまで全てを丸出しにした俺は、いったい何をどうしたら良いのか全く分からず大混乱に陥っていた。 「アルファ」  トーゴの手が俺へと伸びる。ギュッと俺を抱きしめたトーゴの熱い手が、ポンと俺の背中を叩く。  その瞬間、魔法のようにフッと肩の荷が下りて、心の中が軽くなる。  トーゴは俺を見つめながら、柔和にニッコリと笑顔を見せた。 「実は、なんとなく、そうなんじゃないかと思ってたよ。アルファは、本当は童貞なのかもって」 「……えっ? アッ!」  熱く火照ったトーゴの指が、俺のペニスの先端をつつく。油断しきっていた所に急に悪戯をされた俺は堪らずビクンと体を震わせ、そんな俺の反応を見たトーゴは無邪気な笑い声を上げつつ脚を広げ、ぬらりと濡れて艶めきながら窄まる柔らかな己のアナルを俺へと晒した。無遠慮に俺のペニスを掴んだトーゴがその先端を己のアナルにピタリと宛がう。亀頭がアナルにチュウッとキスされ、陰茎がグッと膨張する。 「アルファ、あるふぁ、」  俺に向かってトーゴは微笑み、両手を広げた。俺はそれに誘われるまま彼を抱きしめ、熱く火照ったトーゴの体に己の腰を近付けた。  ぬ、ぬ、と男根が体内へと沈んでいく。  熱く猛った肉の坩堝が俺のペニスにしゃぶりつく。  俺に抱き付くトーゴの腕に力が籠る。  じわじわとトーゴが俺を飲み込む。  未知の刺激に俺のペニスが奪われていく。 「あっ、あるふぁ、ふぅ、んんッ、あッ!」  ズクン、ズクンとトーゴの熱い肉壁がうねる。もっと奥へ、もっと奥へと未知の世界に陰茎が吸い込まれていく。  膨張しきった俺のペニスがその根元まで完全にトーゴに飲まれると、俺の腹とトーゴの尻がパチュンと音を立ててぶつかった。 「……トーゴ、大丈夫か? 苦しくないか?」  必死に俺にしがみ付いてブルブルと震えるトーゴに対して呼び掛ける。  俺の言葉に反応したトーゴは顔を上げ、これ以上ない程赤く染まった顔をふにゃふにゃと緩ませながらだらしなく愛らしい笑みを見せた。 「そっちこそ、だいじょうぶか?」  キュウッとアナルが窄まる。俺はこめかみに汗を垂らし、熱く火照ったトーゴの体を強く強く抱きしめた。 「ごめん、トーゴ……俺、もう、あんまり大丈夫じゃないかも……っ!」 「んっ、アッ、……ああっ、あるふぁ、あっ、アアアッ!」  俺の腰が意思とは全く無関係に勝手に前後に動き出す。ぱちゅんぱちゅんと俺の腹とトーゴの尻がぶつかりあう。  猛々しくうねる肉の坩堝が俺のペニスの出入りにより大いに乱れ、不規則な収縮と弛緩を繰り返して陰茎の膨張に食らいつく。 「アアッ、あるふぁ、はげし、あっ、ああっ!」 「トーゴ、あっ、やばい、ちんこ、とける、あっ、あっ」  ぐちゅん、ぐちゅん。  淫らな水音を散らかしながら草むらで肉体を絡ませ合う、その行為はセックスというよりも交尾と呼んだ方がふさわしいような、そんな荒々しさに満ちていた。トーゴの体内は蕩けたバターのように熱く、俺のペニスは油断をすればそのまま溶けてなくなってしまうのではないかと思われた。  カクカクと腰を揺らす度に摩擦熱でさらに激しく結合部が茹だる。トーゴの嬌声が、何も分からなくなってしまった俺の脳に浸透する。それが堪らなく心地良く、彼の奥へと己のペニスを打ち付ける。  キュウッと窄まるトーゴのアナルの収縮を受け、俺のペニスが膨張する。ぶつかり稽古のような肉の猛り。蕩ける坩堝が俺をしゃぶる。視界の明滅。沸き立つ血流が裏返る。トーゴがビクビクと体を震わせ、二人の湿った体の間に熱い迸りが叩きつけられる。肌を焼くほどの熱い精液。  トーゴが射精をした。ぼんやりとした意識の中に入り込んだその実感に、俺の体温が上昇する。心臓が早鐘を打つ。血液がペニスに流れ込む。パンパンに腫れた陰嚢が、トーゴの愛らしい尻の肉にピチピチとその身を打ち付ける。 「ん――――…………ッ!」  トーゴが俺の唇にかぶりつく。情けない声がトーゴの口内に吸い込まれていく。トーゴの舌が俺の舌を襲撃する。  頭の中が真っ白になったその瞬間、俺のペニスはトーゴの中で大きくググッと膨れ上がると、そのまま彼の最深部へと全ての猛りを迸らせていた。 ――――  放心状態だった。何かすごい事が起きたなあというふんわりとした感覚の他、俺は全てを手離していた。 「アルファ? 大丈夫か?」 「…………あっ」  仰向けに寝転び青い空を見上げながらぼんやりとしていた俺は、ヒョコッと視界に現れた彼の顔を見てようやく自分が置かれた状況を思い出し、裸の下半身に気付いて慌てて股間を両手で隠した。  そんな俺の姿を見て笑うトーゴは既に着衣を纏っており、全身の肌をほんのりと赤らめセックスの余韻を漂わせながらもいつもの彼へと戻っていた。  起き上がって着衣を整えた俺は、チラリとトーゴへ視線を向けた。相手を気遣う余裕もなく事を致してしまった事に、俺は大いに反省していた。トーゴの体は大丈夫だろうか、不快ではなかっただろうか、嫌われてはいないだろうか――そんな思いを抱えながらチラチラと彼の様子を窺うが、トーゴ本人は俺と目が合うと嬉しそうにニコリと笑って見せて全く元気な様子だった。 「なあトーゴ、大丈夫だったか? 俺、今までは結構カッコ良くセックス出来たんだけど、さっきは全然余裕なくて……」 「そうなのか? 俺はさっきのセックスの最中、ずっとアルファの事をカッコイイなあと思ってたし、すごく優しくしてくれるなあと思ってたけどな。むしろ俺の方こそ、恥ずかしい所いっぱい見せちまって……引いてないか?」  照れ臭そうにトーゴが小さく首を傾げる。脚を広げて濡れたアナルを見せつけてきた淫らな姿とは対照的にピュアな仕草を見せて来るトーゴのそのギャップは好ましいばかりで、俺は彼を抱きしめながら「引くわけないよ」と返答した。  穏やかな気持ちでしばらくトーゴを抱きしめていたが、すぐにハッとして抱擁を解くと彼の顔を覗き込んだ。俺には確認しておきたいことがあった。確認しなければならない事があった。 「なあ、トーゴ。その、えっと……俺が本当は童貞だって、気付いてたのか?」 「まあ、なんとなくだけどな」  何てことないかのように軽くそう答えるトーゴに俺は慌てた。どうしてバレたのか、全く心当たりがなかった。もしやこの村の全員に、童貞がバレているのだろうか。俺が実はインポであったと、バレていたのだろうか。  オロオロと動揺する俺を見てトーゴは不憫に思ったのか、「落ち着けアルファ、大丈夫だ」と小さな子供を慰めるようによしよしと背中を撫でてくれた。 「……なんで気付いたんだ?」  トーゴに背中を撫でられながらゆっくりと深呼吸をして心を落ち着かせ、改めて事の真相を問う。するとトーゴはウーンと唸り、ゆっくりと口を開いた。 「三日間で、アルファはこの村の皆とセックスしただろ。皆はアルファに抱かれて喜んでいた。アルファにペニスを挿入されて、中出しされて、魔力を強めた。でもさ、普通に考えてみろよ。いくらハーブティーで精力を増強しているとしてもだ。……一本のチンコから、三日で百人分の精液が出ると思うか? 相当巨大なキンタマがないと、物理的に難しくないか?」  全く反論の余地がなかった。睾丸の容量、睾丸が生成できる精液の量、全てを多めに見積もったとしても、そこまで大量の精液を一人の人間が用意する事は到底不可能だった。 「もしかすると童貞には無理だけど、非童貞ならそのくらい大量の精液を出せるのかもしれないとも思ったよ。でも、やっぱりどう考えても百人分の精液を溜めるには服から飛び出るくらいの巨大なキンタマが必要だろうからさ。だから、もしかするとアルファは射精しないでセックスをしているのかもしれないと思った訳よ」  射精をせずにセックスをしている。俺の睾丸が尋常ならざるサイズではない事に疑問を抱いたトーゴが、その真実をひっそりと見抜いていた事に気まずさを感じる。着衣の裾から零れ出ることなくきちんと収納されている俺の睾丸を不思議そうに眺めていたであろうトーゴの視線に一切気付かず、呑気にハーブティーをすすっていた日々を振り返り羞恥を感じる。 「アルファは射精をしていないかもしれない。そう考えると、この村に来てからなかなか皆とセックスをしなかった態度から見て、ひょっとしてアルファも本当は童貞なんじゃないかって、可能性の一つとしてあり得るなって、なんとなく少し思っただけだよ。アルファは本当は童貞かもしれないし、本当に童貞じゃないかもしれない。でもそんなのはどうでも良い事だろ。挿入や射精の有無は別として、アルファは皆と一生懸命セックスをして、この村の魔力を高めてくれた。だから俺は、お前が実は童貞だって聞いた時も、全然何とも思わなかったよ。……いや、全然何とも思わなかったってのは嘘だな」  トーゴが笑い、俺の背中をポンと叩く。 「お前が童貞だって聞いた時、可愛いなあって思ったよ」  楽し気に笑うトーゴの態度に、俺はすっかり脱力していた。必死に隠していた秘め事を、実は見抜かれていただなんて。こんな事なら、早く打ち明ければ良かった。きっとトーゴは早い段階で俺が童貞だと白状しても、優しく受け止めてくれただろう。  俺はヘナヘナとその場に座り込んで頭を抱えた。 「なんだよ、すげー必死に隠してたのに。俺が童貞でインポだってバレてたなら、思い悩む必要なんて全然なかったんじゃないか」 「いや、たぶん皆にはバレてないよ。勝手に俺が、もしかしたらアルファは童貞かもって勝手に思ってただけだからさ。……っていうか、インポだったのか? あんなにビンビンに勃起してたのに?」  失言だった。どうやらバレていたのは童貞の部分だけであり、インポについてはトーゴにも見抜かれていなかったらしい。  俺は観念し、白状できる秘密の全てをトーゴに晒した。  全力でセックスに挑んでも、勃起できずに悩んでいた事。勃起ができずに挿入を果たせなかった事。百人抱いても全然ペニスが勃たなかった事。先程トーゴとセックスをして、初めてペニスが勃った事。  がっくりと肩を落としながら全てを打ち明けた俺は、恐る恐るトーゴの反応を窺った。期待を裏切り続けていた事実に対し、失望されるのが怖かったのだ。  しかしトーゴは一切そんな気配を見せず、逆に目をキラキラとさせて嬉しそうに俺を見つめていた。 「ずっと勃起できなかったのに、俺とのセックスでいきなり勃起できたのか? ははっ、なんだそれ。すげー嬉しい」  トーゴは声を上げて笑い、喜んだ。  勃起不全を告白して喜ばれるというのは、全く想定外だった。  トーゴに手を引かれて立ち上がる。秘密を手離した俺の心はとても軽く、そして溜まりに溜まった精液を吐き出した股間も非常に軽く、俺の心身は今なら空も飛べてしまいそうなほどに爽やかな感覚に包まれていた。 「ありがとな、アルファ。お前に抱いて貰えて、俺も魔力が高まったよ。まあ、相変わらず軽く水を出すだけの魔法しか使えないんだけどさ。どのくらい出るようになったか試すから、ちょっと見てくれるか?」 「ああ、見せてくれ。ついでに水浴びもしたいな。今の俺達、きっとすごくイカ臭いから」 「たしかにな」  ケラケラと笑いながらトーゴが宙に向かって指を振る。俺も笑いながらトーゴの指先へ目線を向ける。その瞬間、彼の指の先からは大木のように太い水柱が噴出し、空の彼方へ大量の冷水が迸った。  えっ、とトーゴが硬直する。その間も立ち上った水柱は止むことがなく、ドパドパと無限の噴水を放って空に大きな虹を作った。目の前の光景に驚く俺のその隣で、魔法を放った張本人であるトーゴは俺以上に驚いてオロオロとうろたえていた。 「どうしようアルファ! これどうやって止めるんだ!? 止まらない!」 「えっ? 今まではどうやって止めてたんだ?」 「止めなくても勝手に止まってたよ! ヤカン一杯分しか出ないから!」  あたふたする俺達の動揺など露知らず、水柱はその勢いを全く弱める気配もないまま轟音を上げて迸り続ける。しばらく七転八倒した後、トーゴが再度指を振ると水は止まり、後にはびしょ濡れで呆然とする二匹の濡れ鼠が取り残された。 「……なんだ、今の……?」  トーゴは自身の指を見て、訳が分からず混乱していた。俺はハッとした。  挿入を伴わないセックスでも、村人たちの魔力は向上していた。俺は先ほど、トーゴに挿入を果たした。その体内に精液も注いだ。ただの射精ではない。この世界に来てからずっとずっとため込んでいた、大量の精液をトーゴに放った。その結果、彼の魔力は未だかつてないほど高まり、ヤカン一杯分の放水魔法は無尽蔵の噴水を成す強力な魔法へと進化したのだ。  これはつまり、俺の濃厚な精液による結果だ。俺の精液が彼の体に作用した結果だ。俺はこの見解を述べるべく、混乱するトーゴに向かって「俺の精液が、」と語り出したが、その発言を遮るように興奮した様子のトーゴがワアッと歓声を上げて俺の両手をガシリと掴んだ。 「分かった! 愛の力だ!」 「えっ? 愛?」 「そうだよ! お前のセックスのおかげで俺の魔力は高まった。それに愛の力が加わって、セックス分の魔力増強効果に相乗した愛の力で俺の魔力は更に強く高まったんだ!」  何を言っているのか分からなかったが、意味的にはだいたい同じであろうと判断し、俺はトーゴの手を握りかえして「きっとそうだ!」と勢いよく返答した。睾丸の中でパンパンに溜め込んだ濃厚な精液の力であると言うより、愛の力だと表現する方が幾分か清らかであるように思えたからだ。  びしょ濡れになりながら嬉しそうに笑うトーゴの手を固く握り、俺は少々考えた。この世界は、俺のペニスにその命運を賭けている。俺はこの世界の主人公で、この物語の向かう未来は俺の選択次第である。俺のペニスは勃起を覚え、俺の友人であるトーゴは愛の力で覚醒した。 「なあ、トーゴ。突然何を言っているんだと思われるかもしれないけど、俺ってこの世界の主人公なんだよ」 「突然何を言っているんだ?」  キョトンとするトーゴの手を引き寄せ、びしょ濡れの体を抱きしめる。するとトーゴは少し驚いた素振りを見せるもすぐ嬉しそうに俺に抱き着き、幸せそうにフフッと微笑む。  俺はこの世界の主人公なのだ。このボーイズラブの物語をハッピーエンドへと導く、総攻め主人公なのだ。 「トーゴ、俺と一緒に来てくれないか。これから、魔王のところまで」 「えっ?」  俺が何を言っているのか、きっとトーゴには分からない。それでも俺は、彼と一緒ならきっと行けると確信していた。  トーゴにはトーゴの、俺には俺の、各々出来る仕事がある。俺は困惑するトーゴの唇にチュッとキスをし、再び彼を抱きしめた。 「お前の力が必要なんだよ。一緒に行こう。この世界の、めでたしめでたしのその先へ」

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