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第1話-5 翌朝

すると春がシャワーから戻ってきた。 髪はまだ濡れていて、松永がいるというのに、秋は思わずその姿にどきりとした。 春は髪をタオルで拭きながら、テーブルに置かれた薬を口に含み、水で流し込んだ。 そんな春に、松永が真剣な表情で尋ねた。 「本当に出るのね?」 春はすぐに、はい、と返事をした。 すると松永は分かった、と半ば諦めのように短く言った。 部屋を出る二人について、秋は玄関についていく。 秋が春に言う。 「俺…今日、ここで待っててもいい?」 不安そうに尋ねた秋に、春はふっと笑みを浮かべ、うん、と言った。 そして、玄関に置かれたカードを手渡し、言った。 「これ、鍵」 秋はそれを黙って受け取った。 松永はそんな二人を黙って見つめている。 「行くわよ」 松永の声に、じゃあ、と春は秋に告げ、仕事へ向かった。 秋は手に持ったカードキーを額に当て、 思わずニヤついた頬を叩いた。 そして、本当に大丈夫かな、と不安になった思いを押し込め、ただ春の無事を祈り、一人部屋に戻っていった。

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