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第2話-1 松永と春
秋に見送られた後、いつものように黙って後部座席に座っている春を、松永は車のミラー越しに確認する。
いつもと変わらない表情だ。
春は普段、人がいる時には常に少し口角を上げ、微笑んだ表情をしている。
それは楽屋でも同じだ。
他人と接する可能性がある場合が少しでもある時、春はその微笑みを崩さない。
しかし、この車――松永が運転する移動車でだけは例外だった。
微笑むことはなく、ただ力を抜いてそこにいる。
春にとって、この車に乗っているときは気を抜ける時間なのだろう。
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