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第2話-4 松永と春
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2日目の公演終了後。
楽屋裏で、春は昨夜と同じく激しく息をあげ、用意されていたベッドに横たわっていた。
呼んでいた医師により、点滴と処置がなされている。
医師は苦い顔で言う。
「明日からは入院ですからね」
初日公演後、緊急搬送された病院で告げられたのは「特発性後天性全身性無汗症」と言う聞き慣れない病名だった。
すぐに入院してくれ、と言う医師の指示に、春は3日待ってくれ、と言って聞かなかった。
そしてこうして公演会場に医師を派遣し、厳重な対策を打って、春はデビュー公演に出演することを許可されていた。
申し訳ありません、と松永は医師に謝るが、医師は苦い表情をして崩さない。
苦しむ様子の春を見て、松永は唇を噛んだ。
春は言葉数が極端に少ない代わり、一度言ったことは決して曲げなかった。
きっと明日の公演も出るつもりだ。
いや、出るだろう。
春は今日の公演でも、ステージ上では不調を一切見せなかった。
一緒にデビューが決まったメンバーの他の4人の前でも、それは同じだ。
弱みを見せることが苦手なのだ。
長い付き合いの中で、春が弱音を吐くところを見たことがない。
今だってそうだ。
明らかに限界を迎えているのに、春は一度も弱音を吐かない。何を言ってもひたすら「大丈夫」「出る」としか言わない。
松永は公演後も一日中びっちり詰まったスケジュールの調整のため、楽屋を出た。
するとドアのすぐそばに、渡邊悟 がいた。
渡邊は春とともにデビューする、アイドルグループのメンバーだ。春と渡邊は長い付き合いで、春が入所してすぐ、渡邊も入所した。春の一つ年上で、今年20歳だ。
渡邊は心配そうな表情で松永に尋ねた。
「春、大丈夫なの?」
松永はそんな渡邊を安心させるように、大丈夫よ、と言った。
するともう一人のメンバーである、上条裕季 が現れた。
上条は春と同い年で、春より先に子役としてすでに事務所に所属していた。芸歴で言えば、上条の方が2年ほど先輩だ。
「無理だろ、また中で倒れてんだろ?」
上条はそう、ぶっきらぼうに言う。
松永はその言葉にただ眉を上げただけで、何も言わない。
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