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第2話-5 松永と春

上条と春は、あまり仲が良いとは言えなかった。 普段二人はほとんど口を効かない。 それは、上条に原因があるように思えるものだった。 というのも、春はいい意味でも悪い意味でも、誰かを特別扱いすることはないからだ。 誰に対しても平等で、深入りは決してしない。話しかけられたらそれに春は答え、そしてそうしないメンバーに春は自ら話しかけたりはしない。 誰かを好くことも、嫌うこともしないのだ。 上条は、昔から春を特別意識しているようだった。 上昇志向の高い上条は、春が社長期待の新人として入所し、それからとんとん拍子に仕事を受けてこなしていく様をあまり面白く思っていないようで、デビューグループの同じメンバーに選抜されてからもずっと分かりやすく態度に示していた。 春はそれに気づいているのかいないのか、それで特別態度を変えることはしなかった。 「内容、変えた方がいいんじゃないの?」 上条は変わらぬ口調でそう言う。 渡邊もその意見に賛同するように言った。 「確かに。ダンス曲パートを変更して、春以外のユニット曲をやるようにしてさ、ちょっとでも出る時間減らしたり…」 松永はそれを聞き、静かに言った。 「そのまま出るって聞かないの」 「メンバーもファンもみんな、この日のためにやってきたからって」 2人は推し黙る。 すると上条が小さくため息をつき、ん、と持っていた大きなビニール袋を手渡してきた。 松永がそれを受け取り中を見ると、大量の経口補水液の飲むゼリーが入っていた。 松永が顔を上げて上条を見る。 すると再びぶっきらぼうに、家に余ってたから、と言い、そのまま踵を返して自身の楽屋に戻った。 渡邊はそれを見て表情を緩め、フッと笑った。 「上ちゃんも心配なんだって」 松永も同じように小さく微笑んだ。

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