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第2話-6 松永と春
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春を連れて春の自宅のドアを開けると、すぐさま秋が中から飛び出してきた。
春は点滴をして、少し落ち着いている。
その様子を見てか、秋は少し安心したような顔をした。
松永は秋に、上条から受け取ったゼリーの袋を手渡した。
秋は中身を一つ取り出し、パッケージを眺めている。
春もそれを覗き込んで確認した。
松永は言った。
「それ、上条くんから」
すると春は少し目を大きく開け、驚いた表情をした。
「とりあえず明日、乗り切ろう」
春はそれに、はい、と言い頷いた。
「じゃあよろしくね」
秋に向けてそう言うと、はい!と秋は真剣な表情をして返事をした。
「起こすところまでお願いね」
そういたずらっぽく松永が言うと、秋は困ったように笑った。
秋のその表情に、松永は内心驚いていた。
春はすこぶる朝が弱い。
何度声をかけてもなかなか起きず、松永も慣れない頃は苦労したものだ。
――春の寝起きの悪さを知っているんだ。
人に頼らず、決して弱みを見せない春が、こうして自分のテリトリーに人が立ち入ることを許しているのを、松永は長い付き合いの中で初めて見た。
「じゃあまた明日」
松永はそう言い残し、春の自宅を後にした。
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