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第3話-2 ただの友達?

春に親しい友人がいる、というのは思ってもみないことだった。 出会ってからこれまで、春は友人の話を一度でもしたことがなかった。 事務所のメンバーや共演者と春はあまり交友を持たず、連絡先さえ積極的に教えていないようだった。 特に共演の女優には個人的な連絡先は一切教えることがなく、代わりに事務所が用意した春の仕事用のアドレスをいつも春は伝えていた。 以前春に個人的な感情を抱いた女優が春の連絡先を勝手に友人たちに教え、それでトラブルが起きたことがあったのだ。 その一件を耳に挟んだ霧峰は、すぐに仕事用の携帯を新規で契約して、春に持たせた。 そうして共演者から来たメールを代理で返信するのも、松永の仕事の一つだった。 そういうこともあり、春の個人的な連絡先を知っている人間はかなり限られていた。 9年この仕事をしている春はかなりの数の人間と出会ってきているが、おそらくそれは両手で収まるくらいだろう。 学校では様子が違ったのかもしれない、と、興味本位で松永は秋に尋ねた。 「学校では春はどんな感じだったの?」 その突然の質問に秋はん〜…と首を傾げた。 「変わらないですよ、別に…ほら、テレビで見る感じと…」 その返答に、こんな感じ?と春がいつもしている微笑みを真似て車のミラー越しに秋に確認する。 するとそれを見て秋は吹き出し、あはは、と声を上げて笑い、そうですそうです、と言った。 「でも随分と春は今瀬くんに懐いてるみたいだけど」 そう言うと、そ、そうですか…?と秋は少し嬉しそうな表情をした。 どんな手を使ったのよ?と、松永は少し冗談めかして尋ねた。 「しつこくしただけです」 「しつこく?」 「はい 何回も何回も話しかけて、みたいな」 「あはは そう」 そして松永は言った。 「私とおんなじね」 「松永さんもですか?」 「そうよ〜 最初はにこりとも笑わなかったんだから」 「ええ?想像つかない…」 そうして松永は昔の春の話をし出した。 話しかけてもはい、か、いいえ。 ずっと真顔でじーっと何も言わないで、全然笑わなかったこと。 そして、アイドル活動を始める、となった時から、春がいつでもああして微笑むようになったこと。 秋はそれを興味深そうに聞いている。 松永は続けた。 事務所やグループのメンバーともあまり深く関わらないこと。 そして共演者ともほとんど関わりを持たないこと。 こうして長く付き添っている松永にも、一切愚痴や弱音を吐いたことがないこと。 そして松永は言った。 「今瀬くんみたいな気の許せる友達がいるって思ってなかったからさ、なんかほっとした」 秋はそれを、黙って聞いている。 「弱みを見せられる人がいて、良かったわ」 「これからも支えてやってね」 それに秋は静かに、はい、と言った。

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