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第4話-1 病室にて

松永が病室を後にして、秋はゆっくりと春の方に振り返った。 まだ頬が赤くなっているのが、自分でも分かる。 すると春は少し微笑んで、秋に言った。 「…バレてたね」 ―― 松永が訪れる数分前。 春はベッドを少し起こした状態でそれに身を預け、秋はすぐそばの椅子に座って話していた。 「ちゃんと寝れた?」 秋は春に尋ねる。 「うん、寝れたよ」 「しんどくない?」 「平気」 「そっか 良かった」 そう言って秋は春の膝に頭を乗せた。 すると春はそっと秋の髪に触れ、秋も寝れた?と優しく尋ねた。 秋はそのまま顔を上げ、春を見上げて言った。 「うん すごい寝た」 「ふふ 良かった」 春は秋の髪に触れながら、そう優しく笑った。 その春の表情を見て、ゆっくりと吸い込まれるように、秋は春の唇に自分の唇をそっと重ねた。 唇がすっと離れ、病院なのにしちゃった、と秋は小さな声で言った。 春の目を見つめる。 優しく、じっと秋を見つめている。 すると、春がゆっくり静かに言った。 「…誰もいないよ」 秋はその言葉に、再び誘われるように春に口付けた。 先ほどの触れるだけのキスではない、深いキス。 舌先から伝わる春の熱に、秋は溶かされるようだった。 何度も繰り返し、春の手がゆっくり秋に触れた。 その時。 コンコン、と入り口からノックの音がした。 秋はその音に驚き、慌てて春から身を離し立ち上がった。 椅子が大きな音を立てて倒れた。 秋は咄嗟に振り返り、窓の方を向いた。 ___ ___ ___ 「分かってると思うけど、治しに来てますからね?」 そう言って部屋を出た松永に、秋は再び赤面した。

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