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第4話-3 病室にて

今日は自分の家でゆっくり寝て、と春に言われ、秋は松永の気遣いで自宅まで車で送り届けてもらうことになった。 松永と二人きりの車内。 松永は先ほどのことについて、何も言ってこない。 「あの」 秋が口を開いた。 「ん?」 「あの…えっと、その…」 そう言って秋が口籠っていると、松永が言った。 「二人で手繋いで外歩くとかやめてよ?」 秋は思わず顔を上げて、松永の顔をミラー越しに覗き見た。 するとその反応を見て、松永は笑った。 「春と付き合ってるの?」 秋は小さく、…はい、と言った。 「いつから?」 「えと…春が倒れた日…」 「え???」 松永が大きな声をあげた。 そしてすぐ、あいつめちゃくちゃ元気じゃん、と砕けた様子で言った。 それに秋は思わず吹き出した。 「いやいや、ほんと…めっちゃしんどそうでした」 「いや知ってるけど…え、何、どっちから?」 「え?あ…え?いや…まあ…好きって言うのは俺から…」 「へえ…で、付き合おうって言うのは?」 「春から…っていうかまあ、俺が言わせたみたいな感じですけど…」 「へえ…でも春が言ったんだ」 「はい…」 そう返事をして思い出し、ついニヤける秋。 それをミラー越しに確認し、松永は見えてますけど?と笑った。 秋が言う。 「春が…その、松永さんにはバレてるかもって…言ってました」 「バレてる?」 「はい、その…春が、男が好きだってこと、だと、思いますけど」 松永はそれを聞いて、んー、と言った。 「春は…恋愛とか、友達とか、なんかそういう、人との繋がりを全部諦めてるっていうか…そういうの、作る気ないんだと思ってたわ」 だからその読みはハズレね、と松永は言った。 「誰にも自分を明かさないで、誰にも頼らない。周りはそういう春を強いっていうけど、そんなことないのよ」 「本当にびっくりしたのよ、あの日、今瀬くんを家に入れたこと。私だって追い返されちゃったんだから。あなたよりずっと付き合い長いのに」 松永は眉を顰めて拗ねたようにそう言った。 しかしすぐに表情を緩め、ふっと優しく微笑んだ。 「でも安心した」 「本当に繊細な子だから。そっと触れただけでも割れちゃうような…それくらい、本当は臆病で誰よりも弱い子だから。本人もそれを分かってるから、だから誰も受け入れようとしないの、…いや…しなかった、かな?」 松永は小さく微笑んだ。 そして言った。 「大事にしてやってね」 秋はそれに、はい、と強く確かに言った。

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