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第4話-8 病室にて

ん?と不思議そうな顔をした春に、秋は言った。 「聞いてくれたのが嬉しくて」 「?」 「いや、俺のこと知ろうとしてくれてるのかなーってなんか、嬉しいから」 春はそれに優しく微笑み、それから続けて、ごめんね、と言った。 「え?何が?」 「さっき…友達って言ってくれたでしょ」 春の母親に聞かれた時のことか、と秋はううん、と元気よく答える。 「全然!あ、でもさ…」 「昨日、松永さんにその…言っちゃった…んだけど」 「うん、聞いたよ」 「ご、ごめん…嘘…つくの下手だから…」 「いいよ」 申し訳なさそうな顔を続ける秋に、気遣わせてごめんね、と春は謝る。 そんな春の手を、秋はそっと握った。 「…嘘つくの上手くならなきゃ」 すると春はそっと言った。 「…つかなくていいよ」 「秋が言いたいと思った人には、言って良いよ」 「え…でも」 「秋は秋の人生だから 秋が思うように生きて」 秋はそれを聞いて、少し表情を曇らせた。 そして言う。 「それ…寂しい」 「そうだけど…春の人生に俺、混ぜてもらえないみたい 他人って言われたみたいで…寂しいよ」 春は静かに俯いた。 秋は続けて言った。 「俺、春の恋人でしょ?」 「春が何か選ぶ時にはさ、俺にも一緒に考えさせてよ 同じように…俺が選ぶ時も、春も一緒に選んで」 「誰に話すとかさ、俺これからいちいち言うから だから一緒に悩んでよ」 優しくそう言った秋に、春は小さく微笑んで、うん、と静かに頷いた。 そう頷いた春に、秋が少しおどけた様子で言う。 「…誰もいないね?」 「…うん」 「…誰もいないから…キスして良い?」 ふっと春が笑い、頷いた。 そうしてそっと、二人は唇を重ねた。

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