32 / 236
第5話-8 キス以上のこと
「…挿れていい?」
「…うん」
そうして再び春はベッド横のチェストから小さな箱を取り出し、中のパケからゴムを取り出して、自分のそれにゴムをつけた。
俯いた春の髪が顔にかかり、つけていた間接照明の明かりが春を照らす。
淡く照らされた春はいつものように西洋の絵画のような神秘的な美しさを感じさせつつも、微かに肩を上下させて息を吐く様には、人間らしい欲が滲んでいた。
秋はそんな春を眺め、思わず口から言葉がこぼれ出た。
「…綺麗」
「…え?」
秋が手を伸ばす。
それに届くようにか、春が身体を秋の方に下げた。
秋は腕を春に回し、キスをしてから、言った。
「ずっと綺麗な人だなって思ってたけど…なんか今…すごい…そう思った」
再び秋は春に唇を重ねた。
どちらからともなく伸ばした舌が、いやらしく絡み合う。
やがて、ゆっくりと春が入ってくるのが分かった。
指とは違うその感覚に、秋は思わずギュッと力が入ってしまう。
「ん…はぁ…っ」
その声に春が一度止まる。
しかし秋は、春に回した腕に力を込める。
「…いい…から…」
そうして強い圧迫感を感じたまま顔を歪める秋に、春が耳元で静かに呟く。
「秋、…力抜いて」
はぁ、はぁ、と息を漏らしながら、秋は言われた通りに力を抜く。
ゆっくりと春がさらに奥に入ってくるのが分かる。
それでもまだ、中で感じる圧迫感は抜けない。
春はじっと動かないでいる。
秋の表情をじっと見ている。
「痛い?」
「痛く…ない…」
「ほんとに?」
「…んん…うん…動…かないの…?」
「…もうちょっと」
「……嬉しい」
秋がそう小さく呟いて、そして言った。
「春……好きだよ、…好き」
春の青黒い瞳が光ったのが分かった。
ともだちにシェアしよう!

