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第5話-10 キス以上のこと
しばらく二人はただお互いの熱を感じながら、じっとそうしていた。
秋が自分の胸元に沈む春の髪を優しく撫でた。
春の吐く息が秋の身体を撫でるように抜けていく。
「…大丈夫?」
春が小さく尋ねた。
「うん」
秋は春の髪を撫でながら、喉を鳴らすように返事をした。
春が顔を上げる。
秋はそれに、優しく微笑んだ。
「…もう朝だね」
秋のその言葉に、春がふと窓のほうに目をやった。
カーテン越しに外の光が透けている。
秋がごめんね、と言った。
「たくさん寝れる日だったのに」
すると春は目を閉じて、秋の身体に擦り付けるように顔を埋めた。
「…秋」
「…ん?」
「秋」
秋はただ名前を呟くように言う春の髪を優しく撫でる。
そして少し笑ってどうしたの、と言う。
「…秋」
秋はまたそうして名前を呼んだ春にふふ、と笑う。
ただ名前を呼ばれているだけなのに、くすぐったくて、照れ臭くて、あたたかくて、愛おしい。
春はそうして名前を呼んでいるだけだけど、秋にはそれにどんな気持ちが込められているか、手に取るように伝わってきた。
秋は尋ねる。
「…好き?」
「……うん」
「…言ってよ」
「………好き」
そうしてやっと言葉にした春が、秋はいじらしくてたまらなかった。
胸がぎゅっと痛むほど、愛おしくて、愛おしくて。
「俺も好き、大好き」
そうして二人は静かに目を閉じて、朝の光の中、そっと眠りについた。
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