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第8話-5 松山の恋
秋は思いもよらなかったその言葉に、思わず押し黙る。
すると松山がふっと息を吐くように笑い、言った。
「ね?思うでしょ、秋だって勝てるわけないって」
「いや…俺は…春が好きだから…」
「相手もそうなんだって 春が好きなんだって」
ふと口から出た言葉で墓穴を掘ってしまい、秋はまた押し黙った。
ふと、秋は思い出して、恐る恐る尋ねた。
「もしかして…相手って…向井さん…?」
すると松山は黙り込み、その後静かに言った。
「…うん」
向井とは、超売れっ子の人気脚本家だ。
数々のヒットを飛ばし、一般層にも名前が知れ渡っているほどのヒットメーカーで、独特の台詞回しと繊細なキャラクター描写、加えて独創的なストーリー展開が見るものを魅了し、天才と謳われている。
しかし向井は同性愛者で、若く美形な男性タレントに「ドラマに出してあげる」やお小遣いを渡すなどの交換条件で手を出しており、秋も昔、向井のドラマの主題歌のコンペに参加した際、そう話を持ちかけられた。
しかしすでに春が好きだった秋はそれを断り、加えて春も向井から手を出されていたということを知り、向井本人に激昂した過去がある。
その当時、秋は向井の件を松山に相談していた。
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