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第10話-5 きらい

向井がそっと口を開いた。 「…最初はそうだったよ」 「利用してた 利用される代わりに…俺も利用してた」 「…淳もそうだと思ってた」 「けど…違うよね、そうじゃないよね」 「そうじゃなかったら…あんなふうに毎日来ないよね」 「何回起きても…大丈夫ですかって…心配そうに声かけてくれて…僕が寝てる間も…ずっと淳は起きてて…」 「そんな風にされたら…僕だって気付くよ」 「僕だって…好きにもなるよ」 そうやって話し出した向井の手は、小さく震えていた。 「…なんでもするよ 淳が信用してくれるまで…なんでもする」 「…春は…?春のこと…好きなんでしょ…?」 「…好きだったよ」 「……好きなんじゃん…」 「だった、って言ったでしょ 淳にはいないの?好きだった人」 向井は不安そうに、でも必死に言葉を紡ぐ。 「それと同じ 僕は…淳が好きだよ」 「…嘘だ…」 「本当だよ」 「……っ……うそだ……っ…」 「…本当だよ」 再びしゃくりあげて泣き始めた松山を、向井は強く抱きしめた。

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