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第11話-2 その夜
部屋に入ると、向井はリビングのソファに腰掛けていた。
三人を見て、すっと立ち上がった。
そして、座って、と、向かいのソファを手のひらで示した。
そうして、春と秋は向かいのソファに腰掛け、松山は向井の隣に腰掛けた。
そうして向井は、机に置いていた封筒を春に差し出した。
「これ」
春はその封筒に目をやり、そうして視線を静かに上げ、向井を見つめた。
「こういうのを春が受け取らないことが、僕の救いになってたけど…春にそういう意識はなかったよね」
春はそう言われて向井から目線を外して何度か瞬きをした後、静かに言った。
「はい」
その返事を聞いて、向井が小さく笑った。
「どうして受け取らなかったか、聞いてもいい?」
するとしばらくの間をおいて、春は静かに口を開いた。
「…誰かに求められることを返すのが…自分の生き方だと思っていて…そういうのに対価を貰うのは、仕事だけだと思ってたので」
「じゃあ、僕に会うのは何だと思ってたの?」
春は黙った。
向井が再び問う。
「…春の意思で…ここに来てた?」
すると春は静かに言った。
「…はい
…ただ…自分が救われたくて…
ここに来てたんだと…思います」
向井はじっと春を見つめたまま黙り込んだ後、視線を落として小さく息を吐いた。
「…そう」
「僕も…君に随分と救われたけどね」
そうしてしばらく俯いたあと、向井はまた目線を上げ、春を見て言った。
「もう僕は春を利用しないし、春も僕を利用しない
お互い…そんな必要はもうないよね」
「はい」
「これは受け取って みんなにこうして対価を払ってた 春だけ特別にする意義はもうないから」
春は向井のその言葉に、小さく頷いた。
秋はふと、松山に目線をやる。
松山はじっと俯いて、ただ話を聞いているようだった。
「まあ二人で美味しいものでも食べなよ」
そう言って向井はどこかすっきりとした表情を浮かべていた。
――
帰り際、玄関まで見送りに来た向井は、秋に声をかけた。
「秋くん、ごめんね」
秋はそれに少し顔を顰め、言った。
「…あっくん泣かせたら今度はマジで許しませんから」
すると向井はははっと笑い、言った。
「友達、だから?」
「…そうですけど」
「君は友達想いのいい子だねぇ」
そう言って笑う向井を、秋はキッと睨みつけた。
そしてその視線を緩め、秋は言った。
「でも俺も…向井さんに…酷いこと言いました。…すみませんでした」
向井はふっと優しく笑い、やっぱりいい子だね、と言った。
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