75 / 236
第11話-3 その夜
春と秋が帰った夜、松山は何も話さず、ただ帰ることもせず、夜が更けて二人はベッドで横になっていた。
松山は向井に背を向け、ただ黙っていた。
「淳」
そう名前を呼んで、向井は松山の背中にそっと手を重ねた。
すると、ゆっくりと松山が話し出した。
「…こうやって拗ねてたら……向井さんに愛想尽かされるって分かってるのに……素直になれない」
向井はそう弱々しく話し出した松山に、ふっと息を吐いて言った。
「そんなんで愛想尽かさないよ」
「……面倒臭いでしょ」
「面倒臭くないよ」
「おいで」
「…自分で…いけないから…来て」
そう言った松山を、向井は後ろからぎゅっと抱きしめた。
回した腕を、松山がそっと掴んだ。
向井はまた、その手を強く握る。
向井の手に雫が落ちた。
「…ふふ、また泣いてる」
「…好き」
震える声でか細くそういった松山の腕を引き、頬を包むように優しく撫でてキスをした。
松山の手が向井の服をぎゅっと掴んだ。
「向井さん、好き」
そうして二人はまた唇を重ね、互いに何度も舌を絡め合い、衝動のままに荒々しく互いの服を剥ぐ。
途中、淳、淳、と、漏れ出る吐息の間で向井が愛おしそうに何度もつぶやいた。
「…もっと呼んで」
「…え?」
「名前…もっと呼んで」
「淳――」
ともだちにシェアしよう!

