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第11話-7 その夜

―― ―― ―― 二人は大きな音を立てて玄関のドアを開け、中に入った。 途端、秋が春を壁に押しやり、荒い息の中、キスをした。秋が唇を開いても、春はそれに応じることはない。 秋はすっと唇を離した。 そして、傾れるように春の肩に頭を沈めて、言った。 「……弱い」 秋はふっと頭をあげ、春の顔を見つめる。 乾いた涙の跡が残る頬を、秋は優しくつねった。 「…春は…弱いだけ!」 春はそれにされるがまま、じっと秋を見つめている。 「春の背負ってるものとか…春の生き方とか…俺にはまだ全部は分かんないし…だから…なんでそんなに…男を好きだってことに悩むのか…俺には分かんない」 そっと頬をつねっていた手を解く。   「…いいじゃん、男が好きでも  人の思ってるような自分でいられなくても」 「俺は…弱い春も好きだよ」 秋はそう言ってそっと春を抱きしめ、続けて言った。 「それに…強くもなんなくていいよ」 「…人は弱いから…こうやって一緒にいるんでしょ」 「…もっと春のこと教えて」 「…俺の知らない春のこと、教えてよ」 すると、春が弱々しく言った。 「……秋に嫌われたくない」 そう言った春に、秋は小さく息を吐いて笑って言う。 「ならないよ」 「…なるよ」 「多分、ならない」 「…多分に…なった…」 そう言った春の声が小さな子供のようで、秋はそれをなんとも愛おしく思って、再び強く抱きしめた。 「…触ってよ、もっと」 「向井さんに触れたよりもっと…もっと」 「俺がそれ…鼻で笑っちゃうくらい… …嫉妬なんてしなくなるくらい何回も」 ふっと腕を解き、秋は自分の額を春の額に当てた。 じっと春の目を見つめる。 春の目にはまた、涙が浮かんでいた。 「…泣いてるとこ、今日初めて見た」 「……見ないで」 「見せてよ そういうのも…全部見せて」 こぼれ落ちた涙が頬に落ちる。 秋はそれをそっと舐めた。 「…しょっぱい」 秋がそう言うと同時に、春が秋に唇を重ねた。 春の手は秋を強く寄せるように、秋の頭の後ろに伸びた。 少し冷たい指先が秋の首筋を撫でる。 二人は強く求め合うようにキスを交わし、玄関先の廊下で互いの服を剥いだ。 春が秋の手を引き、秋を壁側へ押しやった。 春の唇が秋の肌の至る所に落ちる。 時折春の舌で優しく撫でられ、秋はそれに小さく吐息を漏らした。 徐に秋が春のベルトに手をかけ、荒々しくそれを外した。 同じように春も、秋のベルトを外した。 そうしてまたキスを交わす。 時折、下着越しにお互いの硬くなったものが擦れる。 「…春…っ…シャワー浴びないと……準備…してない…」 そう吐息混じりに秋が言うと、春はうん…と小さな声で返事をしたが、秋の身体に唇を落とすのを止めない。 「…春……」 もう一度秋が名前を呼ぶと、春はやっと動きを止め、秋に身を寄せながら言った。 「……待てない…」 秋はそんな春の髪を優しく撫でたあと、耳元で小さくつぶやいた。 「…すぐだから…待ってて」

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