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第12話-6 かわいい
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息が収まる頃、春はふっと身体を起こし、未だ鳴り続ける電話に出た。
淡々といつものように声色を変えず応答する春を見て、先ほどの春との違いに秋は思わず笑みをこぼした。
電話を終え、ふとその表情を見た春は、なんだか居心地が悪そうに…何で笑うの、とぼそっと言った。
秋も身体を起こし、春を引き寄せるように抱きしめて言った。
「だって…全然違うから
さっきまでの春と…松永さんと喋ってる春が」
秋は春にもたれかかるように、甘えて言った。
「……さっきみたいなの
……他の人には見せないでね」
それに春は小さく笑い、そっと答えた。
「………見せないよ」
「…行かないで」
さっきよりも軽いトーンで、甘えるように秋が再びそう言うと、春が優しく笑った。
「…行かないと」
「…えぇ〜…」
「…もう一回言って」
「…何て?」
「…かわいいって」
「……ふふ、なんで」
「…だって初めて言ったよ、そういうの」
「…そう?」
「うん」
「……いつも思ってるよ」
「…いつも?」
「うん」
「じゃあ言ってよ」
「んん〜…」
そう言って春は秋の肩に顔をうずめる。
「…ほら」
そう催促すると、春は小さな小さな声で、そっと言った。
「………かわいい」
秋はくくっと笑い声を漏らし、抱き寄せた春の頬を擦り寄せ、いっぱいに春の匂いを吸い込んだ。
そしてちゅ、と軽く春の頬に唇を落とした。
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