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第13話-3 謎の訪問者
そうして秋は立ち上がり、春の手を引いて春を起こし、そのままその手を繋いだままリビングに移動した。
ご飯は?と聞くと、春は静かに首を横に振り、大丈夫、と言った。
最近は家を出る前に今日は用意しなくて大丈夫だよ、とか、今日は家で食べたい、とか、そうやって伝えておいてくれるのだが、秋はどちらにしても何かしらはすぐに出せるように準備していて、だからいつもそうやって尋ねるのだ。
秋は自分用のコーヒーと、コーヒーが苦手な春には紅茶を淹れた。
春はすぐそばでそんな秋をただじっと見つめている。
その視線に、秋はふと松山との電話を思い出した。
これで浮気してたら天晴れだな、なんて秋はふっと表情を緩めた。
それに、ん?と不思議そうな顔した春に、なんでもないよ、と秋は言って、二人はソファに腰掛けた。
「順調?」
カップの紅茶を冷ますようにスプーンをゆっくりと回しながら春が優しく尋ねた。
秋はそれにうん、と元気よく答える。
「けど…20曲くらい作んないとでさ、俺こんなん初めてだから…慣れないからな〜」
んー、と秋は伸びをする。
それに春はふわっと優しく微笑み、すごい、と言った。
秋はそんな春の笑みに、思わず吸い込まれるように顔を寄せて口付けた。
コトン、と春がカップを机に置く音がした。
それを合図に、ゆっくりと秋は舌を伸ばした。
春の舌が伸びて、秋の舌をそっとなぞる。
そっと唇が離れ、春が少し顔を顰めた。
「……にがい」
秋が先ほど飲んでいたコーヒーの味がしたのだろう。秋はその春の表情に思わず吹き出した。
「ごめん!忘れてた」
そうしてそっと春を引き寄せて、秋は言った。
「…俺は甘かったよ」
「…蜂蜜入れてくれたから」
「…好きでしょ?」
「…うん」
そうしてすっと離れ、秋はすとん、と春の肩にもたれかかった。
「……もうちょっと頑張ろうかな」
「……うん」
「…寂しい?」
「……ううん」
「え〜?」
春がこてん、ともたれかかった秋の頭に自分の頭をそっと重ね、ドラマ楽しみにしてるね、と言った。
「いつか…春が出るドラマの主題歌とかしたいな」
「ふふ、して」
「じゃあ頑張んないとなー」
よし、と秋はゆっくり立ち上がり、ソファに座る春にそっとキスをした。
「ちゃんと寝てね」
「うん…頑張って」
「うん」
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