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第14話-2 普通
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それから何時間も経って夕方ごろ、柊花はやっと起きてきた。
そうして なあ、お腹空かへん?と言い出し、ご飯食べに行こう、と秋を誘った。
柊花の呼んだタクシーに乗せられ、秋はなんとも高級な寿司屋に連れて行かれた。
秋が内心その値段にビクビクしていると、柊花は奢るからそんなビビらんと、と秋の肩を小突いた。
そうして秋が高級寿司を食べて感激していると、てかさ、と柊花が突然話を切り出した。
「春、女連れ込むことあるん?」
「…えっ!?」
「いや、やることやってんのやなーって」
「…は、はぁ…な、なんでそう…?」
「ベッドの引き出しあけたらそういうの入ってたから」
そういうの、とはゴムやローションのことだろう。
部屋中のドアを開けるような人だ、そりゃチェストの引き出しだって躊躇いなく開けるだろう。
あ、あれ秋の?と尋ねられ、突発的に違いますよ!と秋は答えてしまう。
「春、昔からそんな浮いた話ないしさぁ〜姉としては心配なわけよ」
そうため息をついて柊花は言う。
「でもびっくり、ちゃんと男やったんやなって」
「は、はあ……」
「でもあれ?最近越してきたん?」
「え?あ、お、俺ですか?」
「うん」
「そ…うですね、まあ…半年行くか行かないかとか…それくらいですけど…」
「へえ、ほな春が引っ越してすぐくらいちゃうん?」
「そうです」
「あは、秋とシェアし出したせいで彼女呼べんくなったんちゃうん?」
ケタケタとそう笑う柊花に、秋はまさかそれは自分と使ってますよなんて言えるわけもなく、困ったように笑った。
「秋はおらんの?彼女」
「あ……いや…まあ……」
「え?おるん?どんな子?」
彼女じゃないけど、とは思いつつも、どんな子、と聞かれ、秋は春を思い浮かべる。
「なんか…高嶺の花…って言うか…」
「へえ!美人なんや?」
「はい、もう、めっちゃ」
「はは、写真ないの?」
「や、な、ないですないです」
「うそやぁ!見してや〜」
「いやいやもうもうほんとに、ほんとに…」
頑なに見せようとしない秋に柊花は諦め、でも、と言った。
「幸せもんやな、その彼女」
「え?」
「だって自分のことあんなふうに歌にしてもらったらほんまに嬉しいやろうなって」
「そ、そうです…かね」
「あれ聴かせたことあるん?」
「え?いや…あれはない…ですけど…一回…ライブに来てもらったことはあって…」
「そうなん?えー、でも聴かせてあげぇや!」
「いやー、なんかもう…照れ臭くて…」
なんやそれ!と柊花は大きな声で笑った。
「でも調べて聞いてるやろうな 好きな人の歌なんか気になるやんか」
「え?いや…なんか…機械とか疎い人なんで…多分そういうのやり方知らなそう…」
「今どきそんな人おる?」
弟がまさにそうですよ、と心の中で言って、秋は苦笑した。
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