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第14話-3 普通

―― ―― そうして寿司屋から帰宅してから秋は部屋に篭り楽曲制作をしていた。 深夜、秋が部屋を出ると、春が帰宅して柊花とリビングのソファで何やら話していた。 「あ!来た来た なー!"あれ"弾いてよ!」 秋に気付き、柊花が何やら声をかけてきた。 「"あれ"?……あ、お、おかえり」 ふと目が合った春に声をかける。 春はふっと微笑み、ただいま、と言った。 「ほら、昼間弾いてくれたやつ!秋の作った曲 今その話しててんなあ」 「えっ?」 「秋が彼女に向けて作った曲がめぇーっちゃ良くてって話してて」 えっ、と秋は思わず春を見る。 春はそっと微笑んだままだ。 「えっいやいや…も、もう…夜遅いし…」 「こんな高級マンションで何言うてんの?めっちゃ防音やから、ほら〜」 そう言って柊花は立ち上がり、秋に詰め寄った。 いやいやいやいや、と秋が抵抗し続けると、なにー!ケチー!と柊花が拗ねたそぶりを見せた。 そしてその後すぐにニヤリ、として、言った。 「何ぃ、春に聞かれるん恥ずかしいん?」 その言葉に秋は思わず赤面する。 「なんでぇ、照れんでもええやん!なに、お互いの恋愛の話とかせえへんの?」 「い、いやいや…」 そう言って秋が困っていると、春が柊花、と優しく声を上げた。 「秋、困ってるから」 「え〜…」 柊花は諦めたのか、再び春の横に腰掛けた。 「でもめっちゃ良い曲やってんって」 すると春が静かに言った。 「知ってるよ」 その言葉に、秋はえっ、と声を上げた。 「なに、聞いたことあるん?」 「うん」 秋は思わずなんで?と尋ねた。 すると春は少し間を空けて、言った。 「三年の時のワンマン…間に合わなかったけど遅れて行ったらライブハウスの人が曲のダウンロードの紙くれて」 「えっ、えっ……え?え、じゃあその時聞いてたの?」 「うん」 ええ〜…と言いながら、秋は初めて知ったその事実に思わず赤面して顔を隠すようにしゃがみ込んだ。 「はは、そんな照れんでもいいやんなあ?めっちゃ良い曲じゃない?」 「うん…いい曲」 秋はその言葉に、またカーッと顔が熱くなるのが分かった。

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