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第14話-4 普通
また夜が更けて、そろそろ寝よう、となった時、春は柊花にベッドで寝たら、と言った。
すると柊花はニヤリとして、え〜…と言った。
「弟が彼女と寝たベッドは嫌やわぁ」
そう言われ、春はえ、と短く声を上げた。
「棚の中、見ちゃった」
すると春ははぁ、と小さくため息をつき、勝手に見ないでよ、と言った。
「もう見ちゃったもん やし、柊花はソファで寝る〜」
そう言って柊花はごろん、とソファに寝転んだ。
「男二人寝ても広いやろ、今日は二人でベッドで寝え」
そうしてシッシッ、と手のひらを振り、柊花は目を閉じて、すぐに寝息を立て始めた。
そうして春と秋はベッドに入った。
「…ごめんね」
春は心底疲れた、という様子でそう言った。
秋はそれに思わず小さく笑った。
「ううん なんか凄い人だね」
「うん…」
そしてぼそっと、春は言った。
「…悪い人じゃないんだけどね」
「はは、分かるよ 今日俺、お寿司ご馳走になっちゃった なんでも好きなの食べな〜!って」
「ふふ」
そしてふと、秋が尋ねる。
「…あの曲、聴いてくれてたって知らなかった」
それに、春はふっと微笑んだ。
「…ワンマン、来てくれてたんだね」
「…間に合わなかったけどね」
「でも来てくれたんでしょ?…嬉しい」
でもよく聞き方分かったね、と機械音痴な春を思って秋は尋ねる。
すると春はライブハウスの人が教えてくれた、と言った。
「…どうだった?」
「良い曲だったよ」
そして秋は冗談のつもりで、泣いた?と聞いた。
すると、春はうん、と頷いた。
秋はそれに驚く。
「えっ、泣いたの?」
「うん」
「えっ、え〜…?え、言ってよ…?」
「言えないよ」
ええ〜…と秋は思わず春の胸に潜り込む。
春の手がそっと秋の背中に触れた。
「…俺は聴いてももらえなかった、って落ち込んで泣いてたのに」
「…そうなの?」
「そうだよ、ワンマン来てくれなかったって思って」
「今年はやるの?もうすぐ?」
「ああ…いや、今年はまだ決まってなくて…」
「そうなの?」
「うん…まあ…ほら、あの…ドラマの曲の制作もあるから」
「そっか 忙しいもんね」
「いやいや…春に比べたら全然…」
そうして会話が途切れ、部屋がしん、と静寂が広がった。
すると、顔を埋めていた春の胸から、ドクン、と心臓の音が聞こえた。
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