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第14話-8 普通
柊花はひとしきり笑った後、はーっ、と息を吐き、そして春に言った。
「あんたが普通やったことなんか今まで一回もないやろ」
「そんな見た目で産まれてこーんなちっさい時から綺麗や綺麗やって言われて誰にでも特別扱いされて
大して望んでもなかったのに熱心にスカウトされて芸能界なんか入ってさあ
ほんでこんな家自分で住めるくらい…毎日毎日休みもないくらい仕事あって忙しく働いてるんやろ?
日本ついてパッて見上げたらそこら中春の顔だらけやで
それのどこが普通なん?」
柊花は続ける。
「それに比べたらそんなんほんまにくだらんことすぎて何気にしてるん?って思うわ」
春はそう話し続ける柊花をじっと見つめている。
柊花はそんな春に、コツン、と優しくデコピンをして言った。
「…そんなん気にせんとき」
その一言には、柊花なりの大きな愛と優しさが込められているようだった。
秋はそうして話す二人を、じっとただ見つめていた。
ふっと柊花が秋に視線を向けた。
秋はそれにきゅっと緊張したような表情を向ける。
すると柊花はベッドに乗り上げ、バタン、と秋の隣に寝そべった。
え、と秋は隣に寝転んだ柊花に目線をやる。
すると柊花は言った。
「今日ここで寝る」
「…はえ?」
そう気の抜けた声をあげ、秋は春に目をやる。
春は眉をひそめ、なんで、と言った。
「妹と弟の恋路は一旦邪魔するって決めてんねん」
「ホテル取るとか言ってたじゃん」
「春と秋が私に嘘ついた罰」
春は不服そうに顔を顰めている。
秋はそんな春の素直な表情に、ふっと思わず笑ってしまう。
春はそれに何笑ってるの、とばかりに秋にもしかめ面をした。
柊花はそれに構わず、ベッドの開いた方をポンポン、と叩き、言った。
「はい、もう寝るで」
すると春は柊花の腕をぐい、と引き、端に追いやった。
そうして、開いた真ん中のスペースに潜り込んだ。
「なんなん〜?毎日一緒に寝てんのちゃうの?今日くらいええやん」
「無理」
「なんやな、お姉ちゃんが彼氏の隣に寝て嫉妬?どんだけ嫉妬深いん?」
春はもう話をする気がないのか、すでに目を閉じている。
秋は若干ニヤついてその二人のやりとりを眺めている。
そうして柊花は諦めたのか、しばらくしてほなおやすみ、と秋に声をかけ、眠りについた。
ふと、隣に寝る春の手が秋の手に触れた。
秋はそっと、その手を握った。
すると春は目を瞑ったまま、その手をぎゅっと握り返した。
秋はそれにそっと微笑み、瞼を閉じた。
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