105 / 236

第14話-10 普通

少し間を置いて、春が尋ねた。 「…辞めるの?」 「辞めへんよ、休む」 「公表…するの?」 「せえへんよ 柊花はしても良かったんやけど、社長があかん!隠せ!ってブチギレでさ〜」 「…怒られたんだ」 「え、めっちゃ怒られたで!社長ブチギレ!あはは!」 そうして笑い飛ばした後、柊花は言った。 「でもさあ…怒る気持ちも理解できるけど…」 「それでもさ、柊花の人生やしなあ?」 「柊花の人生やし、柊花のことは柊花が全部選びたい  誰に何言われてもさ、柊花の人生に責任持てるん柊花だけやもん」 「結婚したいって思ったときに結婚したいやん?産みたい時に子供産みたいやん?そもそも柊花、待つのとか我慢とかほんま嫌いやし!」 そうして柊花は、あ!と声をあげ、トイレ!トイレだけ行かせて!柊花な、トイレもしたいと思った時にすぐしたい派やねん!と言ってトイレに駆け込んだ。 思わず二人は顔を見合わせる。 すると、春がぼそっと言った。 「お寿司って…だめなんじゃなかったっけ?」 「え?」 「いや…妊娠中とか…生魚ダメだって聞いたような気がする…」 それに秋はふと、昨日のことを思い出した。 「あ、いや、食べてなかった!卵とか茶碗蒸しとか天ぷらとかばっかで…寿司食べたいって言ってたのに…変な人だなって思ってたんだよ…!」 ああ…と春は少し安心したような顔をする。 そうしてバタバタと柊花が戻り、そうして二人に向けて言った。 「あんたらもあんたらの人生をちゃんと生きや」 妙に説得力の増したその言葉に、二人は黙ってコクンと頷いた。 そうして春が玄関のドアに手をかけた時、そーや!と言って振り返った。 「秋も実家またおいでよ」 「…え?!」 「何その反応」 「や、や…そんな…突然…」 「だって本気で付き合ってるんやろ?」 秋はパチパチと瞬きをして、そして深く頷いた。 「ほんなら挨拶は基本やろ」 そうしてくるっと振り返り、春に向かってママ喜ぶと思うで、と言った。 春はそれに目を伏せて、けれど、うん、と言った。 そうして二人は家を出ていった。

ともだちにシェアしよう!