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第14話-10 普通
少し間を置いて、春が尋ねた。
「…辞めるの?」
「辞めへんよ、休む」
「公表…するの?」
「せえへんよ 柊花はしても良かったんやけど、社長があかん!隠せ!ってブチギレでさ〜」
「…怒られたんだ」
「え、めっちゃ怒られたで!社長ブチギレ!あはは!」
そうして笑い飛ばした後、柊花は言った。
「でもさあ…怒る気持ちも理解できるけど…」
「それでもさ、柊花の人生やしなあ?」
「柊花の人生やし、柊花のことは柊花が全部選びたい
誰に何言われてもさ、柊花の人生に責任持てるん柊花だけやもん」
「結婚したいって思ったときに結婚したいやん?産みたい時に子供産みたいやん?そもそも柊花、待つのとか我慢とかほんま嫌いやし!」
そうして柊花は、あ!と声をあげ、トイレ!トイレだけ行かせて!柊花な、トイレもしたいと思った時にすぐしたい派やねん!と言ってトイレに駆け込んだ。
思わず二人は顔を見合わせる。
すると、春がぼそっと言った。
「お寿司って…だめなんじゃなかったっけ?」
「え?」
「いや…妊娠中とか…生魚ダメだって聞いたような気がする…」
それに秋はふと、昨日のことを思い出した。
「あ、いや、食べてなかった!卵とか茶碗蒸しとか天ぷらとかばっかで…寿司食べたいって言ってたのに…変な人だなって思ってたんだよ…!」
ああ…と春は少し安心したような顔をする。
そうしてバタバタと柊花が戻り、そうして二人に向けて言った。
「あんたらもあんたらの人生をちゃんと生きや」
妙に説得力の増したその言葉に、二人は黙ってコクンと頷いた。
そうして春が玄関のドアに手をかけた時、そーや!と言って振り返った。
「秋も実家またおいでよ」
「…え?!」
「何その反応」
「や、や…そんな…突然…」
「だって本気で付き合ってるんやろ?」
秋はパチパチと瞬きをして、そして深く頷いた。
「ほんなら挨拶は基本やろ」
そうしてくるっと振り返り、春に向かってママ喜ぶと思うで、と言った。
春はそれに目を伏せて、けれど、うん、と言った。
そうして二人は家を出ていった。
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