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第15話-4 秋の誕生日
そうして数日後、秋の誕生日を迎えた。
秋の誕生日の日を迎えるその夜、春は夜遅くまで仕事で、それでも帰宅早々おめでとう、と秋を祝ってくれた。
当日に行けなくてごめんね、と数日後に予定している秋との外食のことを謝り、秋はそんなん気にしてないよ、と嬉しそうに春を抱きしめて言った。
そうして誕生日を迎えたその日の昼間、秋は1人秋の部屋でいつもと変わらず仕事に打ち込んでいた。
向井から直々の指名で舞い込んだドラマの劇伴制作の仕事も佳境に入り、秋は黙々と作業を進める。
向井は嫌に細かく、ドラマプロデューサーからは秋の音源を聴いた向井からのダメ出しが日々送られてきて、秋はそれに必死に喰らいつくように何度も修正して送り続けていた。
なんなんだアイツ…!と秋は1人愚痴を溢しながらも、それでも好きな音楽を仕事にできる喜びをひっそりと感じていた。
だから、秋はこうした日々がまるで苦痛には感じず、逆に、間も無く終わるであろうこの仕事に寂しささえ感じていた。
作業がひと段落し、ハァ、と秋はつけていたヘッドフォンを外した。
んー、と伸びをして、ふと携帯を覗く。
作業の息抜きは、もっぱらSNS観察だ。
それも、春の名前で検索して、春の仕事振りや春のファンたちの投稿を眺めるのが秋の日々の楽しみだった。
今日春は主演した映画の舞台挨拶だったようで、それに抽選で当たった観客たちが、その映画や春を生で見たその感想などを次々に投稿していた。
春は世間の注目の的だ。
そうして春のことを投稿するだけで、次々に春のファンらがその投稿に反応し、リポストやお気に入り数は何千件にもわたる。
秋はふっと頬を緩めた。
春は相変わらず表舞台では"壱川春"を崩さず、求められるまま完璧な笑顔を振りまいているらしい。
そんな春も好きだけど――と、秋は今朝の春を思い出す。
朝起きてすぐ、秋はねだるように春にキスをして、んん…と寝ぼけたまま春はそれに応えた。
そうしてキスを繰り返していると、次第に春の目の色が変わり始め、はっきりと強く欲を写したその目でじっと見つめて秋をゆっくりと押し倒した。
秋はそれにニヤリと笑い、春もそんな秋の顔を見て少し照れたように笑い、そうして今朝も二人は甘い時間を過ごしたのだ。
みんなが知らない春の顔。
秋はひっそりと優越感に満たされた。
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